テラーノベル
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第2試合も、第3試合も、俺たちは相手をゴミ屑みたいに踏みつぶして勝ち上がった。
……はずなのに。
「ねえ、京介。世一(おいち)のチーム、また勝ったって」
パイプ椅子に深々と身を預け、あくびを噛み殺していた俺の横で、凪がスマホの画面を見せつけてくる。
伍号棟のスコアボード。そこには、最底辺だったはずの「チームZ」が、崖っぷちから這い上がって白星を重ねている記録が刻まれていた。
「……だからおいちって誰だよ。世一だ」
「どっちでもいいけど。世一、なんかすごい顔して笑ってるよ」
モニターに映し出された静止画。そこにいた世一は、泥と汗にまみれながら、見たこともないようなギラついた狂気を目に宿していた。
(……は)
吐き気がした。
なんだよ、その顔。
高校の部活で、周りに合わせてへらへら笑いながらパスを出していた頃のあいつは、どこへ行った?
俺の知っている世一は、もっとお行儀が良くて、自分の毒に怯えて、俺の死角に隠れていたはずだ。
「……熱苦しい。見てるだけで吐きそう」
胸の奥が、冷たく、重く、嫌な音を立てて波打つ。
ポケットから黒いゴムを取り出し、解けかけていた髪を掴む。
ぐっと強く、頭皮が痛むほどの力でポニーテールを結び直した。
「あれ、京介。また髪結び直した。……ねえ玲王、今日の京介、いつもより『黒い』」
「ああ、わかるぜ凪。いつもの『だるいから最短で殺す』って顔じゃねぇな。……なんだ、双子の弟が目立って焦ってんのか?」
玲王がニヤニヤしながら、俺の肩を小突いてくる。
俺は玲王の手を冷たく払い除け、低く呟いた。
「焦る? 俺が?……バカ言わないでよ」
焦るわけがない。
ただ、**イラついている**だけだ。
世一が覚醒している? 世界一のエゴイストを目指している?
笑わせるな。あいつに狂気を与えたのはブルーロック(ここ)の環境じゃない。
幼い頃から、一番近くで俺の「冷えた毒」を吸い続けてきたからだ。
あいつの根底にある狂気は、俺の影だ。
影のくせに、光を気取るな。
【伍号棟・一次選考 最終戦:チームV vs チームZ】
ロッカールームを出て、青い光が満ちるピッチへと続く通路。
その中央で、二つのチームが交差する。
「あ……」
チームZの先頭付近にいた男たちが足を止める。
その中で、背番号11をつけた男――世一が、ゆっくりとこちらを振り返った。
同じ顔。
同じ瞳。
だが、その瞳に宿る熱量は、俺の記憶にある弟のそれとはまるで違っていた。
「……京介」
世一が俺の名を呼ぶ。
チームZの連中――赤髪の足が速そうな奴や、蜂みたいな動きをする髪の黄色い奴が、「え、世一が二人!?」「ポニテの方が兄貴か!?」とガタガタ騒いでいるが、どうでもいい。
俺は世一の前で足を止め、死んだような目で弟を見下ろした。
「久しぶりだな、世一。……相変わらず、暑苦しい顔してんな」
「……お前こそ。相変わらず、やる気なさそうな顔だ」
世一は逃げなかった。昔なら俺の視線から逃げるように目を逸らしていたのに、今のあいつはまっすぐに俺の目を射抜いてくる。
「京介。俺はここで勝ち上がる。お前を……チームVを倒して、俺が世界一になる」
まっすぐなエゴ。純粋な熱量。
周りの空気が、あいつの言葉ひとつで熱を帯びていくのがわかる。
それが、無性に反吐が出るほど気に入らなかった。
俺はフッと浅く息を吐き、結んだポニーテールを揺らしながら世一の耳元へ顔を近づけた。
「……勘違いするなよ、世一」
低く、温度のない声を流し込む。
「お前が手に入れた気になってるその『エゴ』、全部俺のお下がりだ。……お前が必死に積み上げた未来(ゲーム)、俺が一番嫌なタイミングで、全部無残に壊してあげる」
世一の息が丸呑みされるように止まる。
「お前は一生、俺の死角で絶望してればいいんだよ」
すれ違いざま、冷たい風が二人の間を吹き抜けた。
ピッチの中央へ歩き出しながら、俺は胸の奥で静かに舌を打つ。
だるい。動きたくない。疲れるのは大嫌いだ。
だけど――今日の試合だけは、ちょっとだけ手加減をやめてやる。
世一のあの自信に満ちた顔が、絶望でぐちゃぐちゃに歪む瞬間を見るためだけに。
#オリジナルストーリー
キュルノ
23
俺は、初めて自分から「ボールを奪い」に行く決意をした。
コメント
1件
あおいです🌷 第3話、読ませていただきました。 双子の兄・京介の「冷えた毒」がひたすらかっこよかったです……! 弟に「お前のエゴは俺のお下がり」って、耳元で囁くシーン、背筋がゾクッとしました。あれだけだるそうにしてた京介が、世一の覚醒で初めて「ボールを奪いに行く」と決意するところ、萌えました。二人の因縁がこれからどう絡むのか、続きが気になりすぎます🔥