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そんな気持ちで、僕は彼を見たままで居た。
すると、彼から問われる。
「君の名前は?」
「え!?え、えっと、フォルトゥナ……。」
本当の名前ではないのは知っているが、僕はそう答えるしかなかった。
名前を知らないからだ。
これはただの仮名にすぎない。
「フォルトゥナ……運命の女神の名前か。」
(よく知っているなぁ……。)
僕はそう思いながら彼の顔を見ていた。
すると、あまり変わらずに居た顔が、少し険しくなった。
何か悪いことでも言ったのか、と考えたが彼は直ぐに元の表情に戻る。
「そうか。……俺も名乗らなければな。」
彼は僕の方を見た。
やはり異様なほど美しい顔立ちをしていた。
つくりもののような綺麗な顔だ。
「俺はユピテル。先程も聞いたかもしれないか、『天の最高神の仮人間』だ。……だが。」
何か続くのか、ほんの一瞬待つと彼は言う。
「俺には____『自分で決めた名前』がある。」
「自分で、決めた、名前……?」
名前を自分で付けられるのか、そんなことを思ってしまった。
「俺は『境』……。『天竜境』だ。」
「なんか……カッコイイ名前だね。」
そう言うと彼は嬉しそうにニコッと笑った。
初めて見た。
(こんなに、爽やかに笑えるんだ……。)
「ありがとう。この名前、気に入っているんだ。思い出があるからな。」
聞いていると僕にもそういう名前、あったら良いな、なんて思ってしまう。
すると彼は何か思い付いたかのような顔をして僕を見た。
「そうだ。フォルトゥナ、君はこの後どうするんだ?救えたのは良いが……。」
それを聞いて僕は考えた。
彼も考えている様子だった。
確かに助けてもらった。
だが僕には行くところがなかった。
この後どうすればいいの分からなかった。
フラフラしてもいいが、それはそれで嫌だし、ついて行く手もあるが迷惑じゃないかと考えてしまう方が優先されてしまう。
すると彼からこう提案された。
「そうだ、君も『天音探偵部』に来ないか?」
「あまおと……たんていぶ?」
探偵って、あの探偵だろうか。
推理をして事件を解決するような、小説で読んだことがある登場人物のような職業だろうか。
「あぁ。そこでは人を助ける為に働いている仮人間達が居る。俺もその一人だ。……出会ったばかりの君に言っても混乱してしまうかもしれないが、どうだろうか?」
『仮人間』って『人類を滅ぼす為につくられた』と聞いたことがあったが、『人を助けるために働いている』仮人間は聞いたことがなかった。
先程、研究員が境は『組織を抜け出した仮人間』だと言っていた。
人を殺すのが嫌な人達が集まっているのだろうか、と考えた僕はその探偵部の事が気になった。
「じゃ……行ってみる。気になるんだ。だめ、かな。」
境は少し驚いた様な顔をしたが直ぐに優しく微笑んだ。
「いや、だめではない。わかった。君を案内しよう。人間界の方へ移動するぞ。」
「え?ここ、お外じゃないの?」
人間界と聞いて僕は驚いた。
「うん?知らなかったのか、ここは『間界』と呼ばれる『Lize』の為の空間なんだ。」
「へ、へぇ……そうなんだ?」
まだ知らないことばかりで、僕は少し困惑してしまったがこれから知っていけば良いや、と思った。
境は僕の手を握る。
僕はビックリしてしまった。
「すまない、こうしないと転移魔法使えないからな。」
境はそう言うと、転移魔法を使った。
僕らは______この場から姿を消した。
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それを見ていた人物が二人居た。
「想定外だったな。」
「うん……。」
男が二人、僕らが消えた場所を見ていた。
「まぁ良い。別に奪い返せば良いし、とりあえず、まずは『博士』に報告するぞ。」
「おう、わかったぜ。」
男二人は光となって消えた。
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僕らは、ある建物の前に転移してきた。
「ここが、『天音探偵部』だ。」
境はそう言った。
僕はその建物を、瞳を丸くして見ているのだった。