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最初に違和感を覚えたのは、立ち位置だった。
楽屋での座る場所。
撮影中の並び。
集合写真での距離感。
いつもは、自然体で過ごしている宮舘と岩本。
だけど、最近の2人は必要以上に“自然”に見える。
そう、“自然すぎて不自然”。
(……計算してる?)
阿部は、ふとした瞬間に目を細めた。
⸻
それが確信に変わったのは、衣装合わせの日。
スタッフと話している岩本の腕を、舘が軽く引いて話しかけた。
手を掴んだわけじゃない。
ほんの一瞬、袖をつまんだだけ。
でも、そのあと2人の視線が一瞬交差して——すぐに逸らした。
(ん……?)
それだけで、阿部の中でピースが揃っていく。
舞台袖で、妙に息が合ってるのに、お互いのテンションに対してやたらと“無関心”を装ってる
(……いや、待てよ。これは……)
思い返してみれば、リハの合間に岩本の首元に赤い痕が見えたことがある。
宮舘の声が少し掠れていた日もある。
でも、恋人の距離感じゃない。
甘い雰囲気も、特別感もない。
むしろ逆。
“なかったことにしてる”空気がそこにある。
その瞬間、阿部の中の論理が、ぐらついた。
理屈では説明できない。
いや、物理的には説明できても、感情が追いつかない。
「なんで……そうなる?」
⸻
後日。
何気ないふりをして、宮舘と2人きりになった楽屋で、阿部は試すように言った。
「最近、照とよく一緒にいるよね」
宮舘は少し笑って、言葉を選ぶように言った。
「前から仲いいじゃん?」
「うん、でも……なんか“特別に自然”な感じがする。お互いのこと、すごくよく分かってるようで、でも全然触れないような……そういう、距離感?」
宮舘は目を伏せた。
ほんの一瞬。
そして、それだけで阿部は確信した。
(あ、これは——もう踏み込んじゃいけないところだ)
⸻
その日から、阿部は2人を少しだけ避けるようになった。
目を合わせすぎないように。
話を聞きすぎないように。
でも、聞こえないはずの声や、見えないはずの痕が、頭に焼きついて離れない。
(俺は……どうして、それを知ってしまったんだろう)
理屈では解けない問題が、
阿部の中で、静かに解きかけのまま残っている。