テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「歩きにくい」と言うリリアーヌに、俺は社畜時代の無敗を誇ったプレゼンスキルを駆使して
「これなら歩きやすく、このヒールの曲線がいかに君の足首を引き締め、ふくらはぎのラインを神話級の美しさに見せるか」
について15分間、ノンストップで熱弁。
結局、彼女は
「……そこまで言うなら、履いてあげてもよくてよ」と、耳まで真っ赤にして購入&プレゼントするのを承諾してくれた。
(ツンデレの教科書通りの反応、ごちそうさまです!)
帰路、俺の両手には溢れんばかりの紙袋。
「重いから半分持ちますわ」という彼女の殊勝な申し出を、「推しに重い荷物を持たせるなど万死に値する」と断固拒否。
筋肉が悲鳴を上げようとも、俺は超重量級の幸せを抱えて、意気揚々と屋敷への帰路についた。
そう、すべては完璧だった。
この、玄関先で靴の紐が解けていることに気づくまでは────
「……あ」
今日に限って、靴の紐が緩んでいた。
両手が荷物で完全に塞がっていた俺は、一歩踏み出した瞬間、バランスを盛大に崩して前へ突っ込んだ。
「うわああああっ!?」
「きゃっ!? デューク……!?」
逃げ場のない至近距離。俺の巨体が、リリアーヌを押し倒す形になった。
ドサドサ! バサッ! と、せっかく買ったドレスや靴が散らばる音が響く。
だが、そんなことはどうでもいい。
「リリアーヌ! 大丈夫か!? 怪我はないか!? 俺のクソみたいな不注意で君の柔肌に傷でもついていたら……!」
慌てて身を起こそうとして、右手に伝わる異様な感覚に気づき、俺の思考が真っ白にフリーズした。
なんだか、ものすごく……柔らかくて
マシュマロのような弾力があって、温かい「何か」を、俺の右手が全力で鷲掴みにしている。
「…………え?」
スローモーションのように視線を落とすと、俺の太い指は、リリアーヌのドレスの胸元を深く、深く沈み込ませていた。
「だ、大丈夫だから……っ。早くその掴んでる手を……ど、退けなさいよ……バカ……っ!」
リリアーヌの声が、かつてないほど震えている。
見上げると、彼女は顔をこれ以上ないほど真っ赤に染め上げ、涙目で俺を睨んでいた。
……いや、睨んでいるというより、あまりの恥ずかしさと衝撃にキャパオーバーして、今にも泣き出しそうな顔だ。
(……待て。今、俺、何を掴んだ? 軟らかい。驚くほど軟らかい。これは、リリアーヌの、リリアーヌの……)
「……っ!!!!!」
俺は弾かれたように後方へ飛び退き
地面に額を激突させる勢いで、アスファルトを砕かんばかりの土下座を繰り出した。
「申し訳ございませんでしたぁぁぁっ!!!」
「?! 声が大きいのよっ!! 周りに聞こえたらどうするんですの!?」
「リリアーヌ! 許してくれ! 違うんだ、これは不可抗力で、物理法則の悪戯で、決して邪な気持ちがあったわけでは……いや、不可抗力だからといって、聖域に触れて良い理由にはならない!」
「いや、別に、許し──」
「推しの神聖な、全人類が跪き、祈りを捧げるべき至高の領域を、布越しとはいえこの汚らわしい元社畜の手で直接触れてしまった……っ!! 触ったどころか、今俺、ホールドしたよな!?」