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俺はガタガタと生まれたての小鹿のように震えながら、犯罪者の証であるかのように自分の右手を凝視した。
「万死に値する……! 聖域を汚したこの指、もはや俺の体の一部として残しておく資格はない……っ。リリアーヌ、ナイフを! 今すぐこの右手の指をすべて切り落として、教会の聖水で三日三晩清めてから、丁重に供養してくれっ!!」
「落ち着きなさいよバカ王子!! 何を物騒なこと言ってますの!? 指なんて切り落としたら、誰がこれから私のエスコートをするんですのよ!!」
「あ……でも、俺の右手が、リリアーヌのその、マシュマロのような、未開の地のような感触を……」
「思い出すなぁぁぁ!! 忘れて! 脳細胞ごと今すぐ記憶から消去なさい!!」
リリアーヌが真っ赤な顔で俺の肩をポカポカと叩く。
本来なら「悪役令嬢による暴力」だが、今の俺にはご褒美を通り越して、魂を浄化する聖なる儀式にしか思えなかった。
叩かれるたびに、罪が少しずつ洗われていく気がする。
「……リリアーヌ。俺、やっぱり一生君を離さない。責任を取る形で、全人生を賭けて君を守り抜く」
「責任の取り方がおかしいですわよっ?!」
「と、とにかく! このことは忘れること! 二度と口に出さない! わかりまして?」
リリアーヌはまだ少し頬を染めたまま、乱れたドレスの裾を必死に整えながら、厳しい口調で言い放った。
「……御意」
リリアーヌは俺の言葉を聞くと、ため息を漏らして
「もう戻りますわ!」と言い残して、逃げるような足取りでスタスタと部屋に戻ってしまった。
しかし俺の心臓は、その愛らしい背中が廊下の角に消えるまで、ドラムの連打のように跳ね続けていた。
(てか、待て、冷静に考えたらマズくないか……?)
これ、乙女ゲームなら一発で『好感度激減・即バッドエンド』イベントじゃないのか?
てかてか、推しにセクハラとかファン失格だろ……
もはや死罪だろ……!
リリアーヌは怒ってはなさそうだったが……いや、あの顔は怒ってたか?
不安に駆られて、その後リリアーヌに「……本当に、怒ってないか?」と恐る恐る聞いてみても
「別に怒ってませんわ」と、フイッとそっぽを向かれるだけ。
(明らかに怒ってません? というか、軽蔑されてません? 目を合わせてくれないのは拒絶のサインですよね!?)
一晩中、俺は自分の右手を呪いながら、ベッドの中で悶絶の七転八倒を繰り返した。
◆◇◆◇
だが、翌朝
重い足取りで食堂へ向かうと、意外にもリリアーヌはいつも通りの
少し不機嫌そうな、けれど凛とした顰め面で俺の隣に座っていた。
「……おはようございます、デューク様」
「リ、リリアーヌ……! おはよう」
(生きてる……俺、まだ嫌われてない!?)
むしろ、昨日よりちょっとだけ、彼女の距離が近い気がするのは……オタクの都合の良い妄想か!?
俺は震える手でフォークを握り、リリアーヌの横顔を盗み見ながら
今日こそは「紳士」として振る舞うことを心に誓った。
……右手の感覚は、脳の最深部、パスワード付きの隠しフォルダに厳重に封印して。