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次の日、社食で七海と後藤と一緒になったので、修子はおおはしゃぎだった。


悠里は思う。

他の社員の人は、この二人と食べるの緊張するみたいなんだけど。


修子さんは、

「やだーっ、緊張するーっ」

と叫んではいるが。


デカい声でそう叫べる時点で、みんなほど緊張していないような気が……。


今も修子は七海にもガンガン質問していた。


「えー。

でも、『しやちゆう』さんが社長なら。


なんで、社長がいるときにも、『しやちゆう』さんから連絡が入ったりしたんですか?」


「それだよ」

と七海が言う。


「昨日、貞弘が、北原さんに俺が『しやちゆう』らしいって話をしてるときに、北原さんが思い出したらしい」


そう七海が言った言葉を悠里が引き取る。


「みんなで呑んでるときに、社長が買い出しに行ってくれたんです。


で、コンビニから、他になにかいるか? と私にメッセージを入れてきたことがあって。


ぼんやり呑んでた大家さんの視界に、スマホに出てた名前だけが入ったんでしょうね。


だから、大家さん、みんなで呑んでるときにも、『しやちゆう』から連絡があった、って記憶だけがなんとなく残ってたみたいで」


「……あんた、社長をお使いに出すのやめなさいよ」

と修子に言われる。


いや、頼んだの、私だけじゃないですよ……。


それに自分が行くって言ったんですよ、と悠里は心の中で言い訳をしていた。


「そうだ。

みんながコンビニ近くに白い猫がいるって言ったら、その猫見たいって社長が言い出して。


それでですよ。

で、ちゃんと、猫見かけたって、入ってきましたよ、確か」


「猫見かけりゃいいってもんでもないでしょうよ」

と修子は言う。



『しやちゆう』の話をしたとき、

「暇なら、明日、みんなでおいでよ。

また呑もうよ」

と北原に言われていたので、夜、七海たちとお邪魔した。


「『しゃちょう』で『しやちゆう』だったんだね。


僕、最初にそう聞いたとき、あれ、七海くんの芸名だったのかな?

と思ったんだよね」


何故、芸名……と悠里は苦笑いする。


「芸名があるのは、こいつですよ。

な、ユウユウ」

と七海が言って、昔のラジオの話になった。


後藤が例の北欧のキャラクターの描かれた、ナッツののった皿を見ながら言う。


「そういえば、子どもの頃、時間割の黒板に、『持ってくるもの スナフ○ン』って書いたって話もありましたよね」


……よく覚えてますね。

でも、みんなちゃんと、給食のナフキン持ってきてましたよ……ええ。


すると、七海が、くっ、と悔しそうな顔をする。


「また俺の知らないエピソードを話しやがってっ。

お前の方が俺より、こいつのファンだとでも言うつもりかっ」


北原がゆるやかに呑みながら、

「……なんでファン争いになってるの?」

と微笑んで言う。


「あ、でも、そうだ。

ケンタッ○ーと言えば」


大家さん、今、ケンタ○キー、何処にもありませんし。

話にも出てきてません……。


「悠里ちゃん、ケン○ッキーを食べてた友だちが、骨を見て、

『あっ』

って叫んだから。


『当たりが出たのっ!?』

って叫んだって話がありましたね」


「いや、あれ。

骨だけになっていたチキンがアイスの棒みたいに見えたからですよ~」


北原と悠里の間では和やかな時間が流れていたが。


七海と後藤は悔しそうな顔をする。


「俺の知らないエピソードがまたっ」


「私も知りませんっ。

北原さんが、一番のユウユウのファンではっ?」


「……いや、僕、参加してないから、そのレース」


「そうですよ。

それに、この話、ラジオでした奴じゃなくて、この前あったことですよ」

と言って、七海に、


「お前、大人になってもまだ、そんなマヌケなことやってんのか……」

とディスられる。


「まあまあ、みなさん。

そんなに揉めることもないですよ」

と北原が不毛な争いを止めに入った。


「どっちが愛情があるとか。

そんなこと競う必要もないです。


愛なんて、あってもなくても同じなんですから」


相当呑んでるはずなのに、まったく様子の変わらない北原は、いつもの素敵な笑顔で、そんなことを言う。


「……大家さん」

「……龍之介さん」

「……北原さん」


「――なにがあったんですか?」


思わず、全員でそう訊いていた。




「毎度すみません」


紙皿や皿を片付けながら、悠里はキッチンで言ったが、北原は、


「いやいや、食事の支度めんどくさいから、みんなで呑むとちょうどいいんだよね~」

と笑っている。


「……悠里ちゃん」


はい? と棚にグラスを戻していた悠里は振り向く。


「君の部屋のユーレイに……」


いや、なんでもない、と北原は手を振った。




暖炉の前に戻ると、さっきまでテーブルを拭いてくれていた七海が一生懸命、後藤を起こそうとしていた。


「立てっ。

立つんだっ、後藤っ。


このまま寝たら、死ぬぞっ」


……死にはしないですよね。


ここで寝たら死ぬのなら。

大家さん、毎晩死んでますよね、

と苦笑いしながら悠里が見ていると、北原が、


「悠里ちゃん。

この人たち、もう、うちに泊めるから、送ってってあげるよ」

と言う。


「えっ?

いいですよ」

と話していると、七海がこちらを振り向き言った。


「龍之介さんっ、大丈夫ですっ。

俺が貞弘を送って行きますからっ」


「いやいや。

大丈夫だよ。


大家だから、アパートまで送っていくよ」


いや、大家だから送ってくっておかしいですけどね……。


だが、そこで、北原はやさしく七海に声をかける。


「ほら、後藤さん起こしてあげないと、死ぬよ」


「そうでしたねっ。

後藤っ、起きるんだっ」


……楽しそうだな、この酔っぱらい。


ザルな大家さんと同じペースで呑むからですよ、と思いながら、悠里は北原に送られて外に出た。




「入るまで見ててあげるから」


「ありがとうございます」

と悠里はアパートの下で頭を下げた。


階段上から振り返ると、相変わらず、美しいのに何故か存在感の薄い北原が、ぼんやりこちらを見上げていた。


いや、自分を通り越して、あの部屋を見ている気がする。


「……北原さん」

と呼びかけてやめる。


夜遅いのと。

訊いていいものなのか、迷いがあったので、すごく小さな声だったのに。


北原は、

「なに?」

と訊き返してきた。


上手く声が風に乗って北原のもとまで届いたのか。


それとも、北原自身がなにか訊かれそうな気がしていたからか。


「……なんでもないです。

ありがとうございました」


ぺこりと悠里は頭を下げて、ユーレイの待つ部屋へと戻った。


……いや、自分では見えてはいないんだが。




眠る前、悠里は、いつものように、何処かにいる霊に向かい、声をかけた。


「住まわせてくださって、ありがとうございます。


……あの~、大家さんとは」


訊きかけて、またやめた。


霊の人の心を波立たせては、成仏しそこねるかもしれないと思ったからだ。


いや、霊の方にしてみれば、


「話、途中でやめないでっ。

余計、気になるでしょっ」

と叫ぶところだったかもしれないが。


悠里は寝ようと横になったが、スマホがメッセージが入ったことを知らせてくる。


暗闇の中、開けてみると、後藤からだった。


なんだろう。

どっか片付いてませんでしたよ、と生き返った後藤さんが訴えてきたのだろうか、と思い、見てみたが。


そこには、


『結婚してください』

の文字があった。


なにがどうして、こうなった~っ!?




おかえりを更新します ~俺様社長と派遣秘書~

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