テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
その背中を見つめた亜佑美は、熱でぼんやりした頭の中で思った。
(……なんで、この子こんなに優しいんだろ)
仲が良いわけでもないし、何なら合コン以来一度も連絡なんて取っていなかった相手だ。
それなのに、突然の電話一本で駆けつけてくれて、飲み物や薬まで買ってきて、その上看病までしてくれるなんて。
(普通ここまでしなくない……?)
そして更には、もしかして下心でもあるのだろうかとも思う始末。
家に上がり込む口実とか、弱っている女に優しくして距離を縮めようとか、そういう打算なのか。
今まで散々そういう男を見てきた亜佑美だからこそ、反射的に疑ってしまう。
けれど、今のところ朝陽からはそういう空気が一切感じられなかった。
必要以上に近づいて来ないし、変に触れてこようともしない。
むしろ気を遣って、いつでも帰れる距離感を保っているくらいだ。
(……意味分かんない)
亜佑美にとって朝陽の行動が理解出来ない。
合コンの場では頼りなさそうに見えたのに、今は妙に落ち着いていて手際もいい。
そのギャップが余計に亜佑美を混乱させる。
すると、キッチンの方から控えめに朝陽の顔が覗くと、
「あ、あの……」
遠慮がちに口を開いた。
「もし迷惑じゃなかったら、お粥とか作っても大丈夫ですか?」
「……お粥?」
「はい。その、さっきゼリーとかしまう時に冷蔵庫開けたら、作れそうな材料は揃っていたので……調理器具とか勝手に使って大丈夫なら、なんですけど……」
それはどこまでも控えめな聞き方だった。
ちゃんと許可を取ろうとしている辺りが妙に律儀で、亜佑美は少しだけ可笑しくなる。
(何なの、本当に……)
何の意図があって、ここまで親切にしてくれるのか、それはやっぱり分からない。
でも、一人暮らしで熱を出して近くに頼れる人もいない今、そんな状況で優しくされれば思っていた以上に心細かった自分に気づいてしまい、
「……好きに使ってくれていいよ」
掠れた声でそう返す。
「ありがとうございます!」
朝陽はぱっと表情を明るくした。
「なるべく早く作りますね」
その声を聞きながら亜佑美はゆっくり目を閉じる。
(……変なの)
下心があるのかもしれないし、ただのお人好しなだけかもしれない。
それでも今だけは、その優しさに甘えていたくて、そんなことを思いながら亜佑美は再び浅い眠りへと落ちていった。
それから暫くして、ふわりと漂ってきた優しい匂いに誘われるように亜佑美はゆっくり目を開け、
「……ん……」
ぼんやりした視界のまま天井を見つめると、身体はまだ怠いものの先程よりは随分楽になっていた。
恐らく薬が効いてきたのだろう。
耳を澄ますと、キッチンの方から小さく食器の触れ合う音が聞こえてきたので少しだけ身体を起こして視線を向けると、朝陽がお粥を作った後片付けをしているところだった。
(……本当に作ってたんだ)
その姿をぼんやり眺めていると、ちょうど片付けを終えた朝陽がリビングへ戻って来て亜佑美が起きていることに気づいた瞬間、ぱっと表情を変え、
「えっ、起こしちゃいましたか!?」
慌てたように声を上げる朝陽。
その反応があまりにも大袈裟で、亜佑美は思わず小さく笑ってしまう。
「ふふ……大丈夫……」
「あ、よかった……」
その言葉に心底安心したように肩を落とす姿に、また少し可笑しくなる。
「薬、効いたみたいで……さっきより楽かも」
「本当ですか?」
朝陽は嬉しそうに目を細めた。
「……ありがとう」
亜佑美がそう言うと、朝陽はにっこり笑う。
「少しでも元気になってくれて安心しました」
その笑顔は飾り気がなくて真っ直ぐだった。
「あ、そうだ。お粥、食べますか?」
「……うん、食べたい」
「分かりました。今持ってきますね」
朝陽はすぐにキッチンへ戻ると、湯気の立つ鍋と器を持って戻ってきた。
「熱いので気をつけてください」
そう言いながら取り皿によそうと、スプーンと一緒に亜佑美へ手渡した。
「ありがと……」
亜佑美は小さく礼を言いながら、お粥を一口口へ運ぶ。
「あっ……、ふ、っ……!」
思った以上に熱かったようで軽く噎せてしまう。
「だ、大丈夫ですか!?」
朝陽はすぐに皿を受け取って水を差し出した。
「はい、水です!」
「ん……ありがと……」
水を飲みながら呼吸を整える亜佑美の横で朝陽は、自然な動作でお粥を一口分スプーンに掬い、そして、
「ふー……ふー……はい」
冷ましたスプーンをそのまま亜佑美の口元へ差し出してくる。
「…………え?」
その瞬間、亜佑美の思考が止まる。
(これって、え……?)
そして一気に熱とは別の意味で頭が混乱した。
#溺愛
コメント
1件
うわぁ、亜佑美の内心がすごくリアルで苦しくなるほど共感できた……。「普通ここまでしなくない?」って思うけど、それと同時に「下心あるの?」って疑っちゃう自分も嫌で、でも朝陽の誠実さに戸惑ってる感じが痛いほど伝わってきたよ。最後のお粥ふーふー、あれは確かに照れるやつ(笑)。萌さんの描く距離感の描写、丁寧で好きです。続きも楽しみにしてますね🤍