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月詠 涼
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#大人恋愛
坂野真夢
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臣桜
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その日の午後七時過ぎ。
就業時間は二時間過ぎていたけれど、イベント前の確認を殆ど終わらせたので、だいぶ早く帰れることになった。
サンゴは、フロアに残っている人に挨拶をして、上着を羽織って荷物を持って、エレベーターを待っていた。しばらくして、やってきたエレベーターに乗ろうとすると……そこには常務が乗っていた。
(わああ、まずい……また常務だ、どうしよう)
気をつけようと思っていても、どうしても同じ社内にいると出くわしてしまうものだ。
「おお!有村君じゃないか!今日はもう終わりか?なんだ乗らないのか?」
常務のいつものように前のめりの姿勢に、このエレベーターに本当に乗っていいのか迷ってしまう。
「……えーっと、乗りま……」
「センパーイ!!!!」
言いかけたところに、またリュウジが走ってやってきてくれた。
「もう!19時半からのM社様との打ち合わせ、直接行くんじゃなくて、オンライン会議ですよ?」
「え、ええ?そうだっけ?」
「僕も同行するって言ったじゃないですか!忘れたんですか?」
「ご、ごめん」
内心、やばい、そんな打ち合わせあったっけ?と思いつつ、急いでエレベーターから離れる。
「あ、そ、そうなのか?」
「はい!すみません!僕ら失礼します。どうぞ行っちゃってください」
常務が呆気に取られている間に、リュウジは深々と頭を下げた。
「そ、そうか、じゃあまた」
そそくさとエレベーターを閉じた常務を見て、「また、なんて2度とないから!」と小さな声で囁くリュウジ。二人でエレベーターを見送ったのを見届け、席まで戻ると、サンゴはリュウジの顔を覗き込んだ。
「ご、ごめんね。M社様との打ち合わせあったっけ?忘れてた」
サンゴが聞くと、すっとしゃがんで机の陰に隠れ、リュウジはこっそり顔を近づけてきた。
「助けるための嘘ですよ嘘!」
「えええ?機転やばい!!うう、助かったよー!!ありがとう」
他の人に聞こえないように計らったのか、リュウジは口元に手を当てて小さな声で言った。
「先輩のマネージャーするんで、なんでも頼ってください!!」
「マネージャーじゃないけどさ……頼もしすぎる!!ありがとね」
机の横でしゃがんでいるリュウジに、サンゴも顔を寄せてお礼した。
「じゃあ、またメロンパン買ってくださいよ〜」
「うん!!明日必ず買っておきます」
「やった」
メロンパンで、助けてくれるなんて、なんてありがたい存在なのだろうと、拝みたい気分で見つめていた。
すると、リュウジはしゃがんだままこちらを向いて、首を傾げた。
「んもー!!それにしても、常務に目つけられすぎですって。もっとピシーッとピシャーっと、自分でも断らないと」
手振りまでピシッと添えている様子が可愛らしい。
「毎回、ちゃんと断ってるんだよ?」
「サン先輩のいつものヘナヘナの言い方じゃ、断ってるって思われてないですって」
「ヘナヘナじゃないもん!」
「もー!そういう言い方ですよ!全然響かないです」
「そっかなあ」
「じゃあ、真似してください!リピートアフターミー!OK?」
「おけ」
「今後一切無理です。失礼します」
リュウジの普段聞かないような、ピシッと言い切る低音ボイスにちょっと驚いてしまう。
「今後一切無理です。失礼します」
サンゴも真似して無理に低い声を出そうとしたら、リュウジが声をあげて笑った。
「アハハハハハ!!」
「ちょっと〜なんで笑うのよ〜」
「変な声出さないでくださいよ。音程まで真似しなくていいのに!!真面目にやってます?」
「真面目だよぉ」
しゃがんで見上げてくる表情も、思いっきりお腹を抱えて笑う仕草も。あまりにも可愛らしくて、子供みたいで、思いっきり頭や頬を撫で回したくなってしまう。
「もう、ちゃんと練習してくださいよ」
「わかったよぉ」
「今後一切無理です。失礼します」
「今後一切無理です。失礼します」
二人で机の陰に隠れて声を出しているところに、ちょうど経理から帰るところのあかりが通りかかった。
「ちょ……二人で何して……」
「あ、あははは」
誤魔化したくて、サンゴもリュウジもすぐに立ち上がった。
「あかり、私と帰ろうと思って寄ってくれたの?」
「うん!サンゴいるかと思って。あとさ、イベント、明後日で終わるんでしょ?蘭と話したんだけど、三人で金曜飲み行こ」
「わー!!行く行く!!」
「久々の女子会だよ!!」
「やったー!!」
あかりの手をとって、肩を揺らして嬉しそうにしているサンゴを優しい目で見つめているリュウジ。そんな彼を、あかりの方は見逃さなかった。
(やばい。さっきの爆イケ低音ボイスも、この目も、蘭に報告しなきゃ……)
「じゃ、あかりと帰ろっかな」
もう一度、鞄を手にしたサンゴに、リュウジはそっと寄って声をひそめた。
「まだ常務いるかもなんで、気をつけてくださいよ!」
「うん!また明日ね〜」
「はいまた明日」
可愛らしく手を振る二人の様子を見て、ほっこりした気分のあかりは、サンゴの方へ歩みを合わせた。
「何?常務に気をつけろって」
「かくかくしかじかで……」
「ねえもう嘘でしょ〜〜?!まじでありえない!!しんどー!!」
あかりも夜のネオン街で、思いっきり両手を握りしめ、遠吠えを響かせていた。
コメント
1件
リュウジ、かっこよすぎる…!!😭💕 低音ボイスで「今後一切無理です」って言い切るところ、脳内再生が止まらん…!しかも机の陰で練習する様子が可愛すぎてキュン死に寸前でした…🌸 サンゴ先輩の変な声真似も愛おしいし、あかりの「爆イケ低音ボイス」に気づくあの視線、蘭に報告しなきゃってなるのも分かる〜!常務から逃げ切れて本当に良かったね🥺 次も絶対読むよ!!