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最近、楽屋に新しい空気が流れ込んできた。
いや、正確には淀みが生まれ始めた、と言った方が正しいのかもしれない。
原因は、数週間前から現場に入るようになった中堅の男性スタッフ、Aだった。
彼は一見すると仕事ができそうで、他のメンバーやスタッフへの当たりも悪くない。
しかし向井康二に対してだけ、その態度は明らかに違っていた。
🧡あ、おはようございます!よろしくお願いします!
楽屋に入ってきたAに、俺はいつものように一番に声を張る。だけど、Aは俺の視線と声だけを器用に避けて、「おはようございます」と他のメンバーにだけ頭を下げた。
🧡(あれ…?聞こえへんかったんかな)
最初はそう思った。でも、それは日に日に確信へと変わっていく。
俺が持ってきた差し入れの菓子折りだけ、彼は頑なに手を出さなかった。
🧡皆さんでどうぞー!これ、めっちゃ美味いで!
🩷うわ、康二ありがとう!
🤍マジで!?やったー!
メンバーが喜んでくれる中、Aだけはスマホをいじりながら冷たく言い放った。
A あ、俺甘いのいらないんで
その一言で、場の空気が一瞬だけ冷える。
俺は慌てて「そっかぁ!Aさん甘いの苦手なんやな!ごめんごめん!」と笑って取り繕ったけど、胸の奥がチクッと痛んだ。
そんな小さな違和感は、棘のように少しずつ心に刺さっていく。
俺が話の中心になると、彼はわざとらしく大きなため息をついたり、聞こえるか聞こえないかの声で「…うるさ」と呟いたり。
🧡(俺、なんかしたかな…)
🧡(タイミングが悪かっただけやんな…)
思い当たる節を探しても、何も出てこない。だから結局、「俺の気のせいや」「俺が気にしすぎなんや」と全部自分の中で完結させるしかなかった。周りに心配をかけたくない。
このグループの和やかな雰囲気を、俺のせいで壊したくない。その一心で、俺はAに対する違和感に蓋をした。
だけど、見えないところで少しずつ蝕まれていく心は、確実にパフォーマンスにも影響を与え始めていた。
振り入れでワンテンポ遅れたり、トークで上手い言葉が出てこなかったり。
そんな俺の変化を、メンバーが気付かないはずもなかった。
ただ、その原因がAだなんて、誰も知る由もなかったけど。
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