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「本当か!?」

アンダーソン王子は前のめりになる。

「あくまでも調べるだけです。仮に治療法があったとしても私には治せません」

聖奈さんはそんな王子にハッキリと告げた。

「もちろん薬なども沢山あるので、バーランド殿下の病状に合ったものを手に入れることは出来るかもしれません」

「では!?」

「ですが、聞くところによるとバーランド殿下は禁忌の薬に手を出されたと。

そちらは私が調べたところで絶対にわかりません」

そうなんだよなぁ。

バーランド王子はやべぇ薬を使ってるんだよな。

こればかりは地球の医学ではどうしようもない。

仮に癌だとしても痛みがそこまで出ているのなら、薬ではどうにも出来ないしな。

「では…やはり兄上の事は…諦めるしか…」

俺も仲間がそんな事になったら、同じように足掻くんだろうな。

情けない事に俺は掛けてやれる言葉がわからないから聖奈さんに任せたんだ。

まぁそもそも王子に頼まれたら私に教えてと言われてたのもあるけど。

「殿下。私達の出身地の医療現場には、QOLクオリティ・オブ・ライフという言葉があります」

「なんだそれは?」

「生活の質という言葉です。

ただ苦しいだけの治療が全てではありません。

助かる見込みが低い。又は命が助かってもその後の生活があまりにも変わるのであれば、助かる方の治療はやめて、長く苦しまずに生き、残された人生の質を高めることを大切に。

という考えです。

すでにバーランド殿下はそれをお選びになられているのではないのでしょうか?

殿下に出来る事は悲しみに暮れることではなく、バーランド王子と共に残された時を大切に過ごす事だと私は思います」

この聡明なアンダーソン王子からして、さらに聡明だと豪語するバーランド王子がすでにそれを選択しているんだ。

「…セーナでもそう言うか。父にも言われたが…わかった。

これは諦めではない。兄の為に私の出来る事をこれからもしていこう」

俺ならそんな風に思えたのかな?

無理だな。

もし仲間に同じ事が起きたとしたら、酒を手放す事が出来なくなり、ベッドの上の住人になるだろうな。

やはり王族は凄いな。

15やそこらで、この提案とも言えない話を飲めるとは。

「それでいいかと思います。

一人で抱え込まずにいつでも私達に話してくださいね。

こちらのセイはバーランド殿下とも歳が近く、変わった知識も持っています。

ですので、バーランド殿下のお話相手には最適かと思いますので、いつでも呼び出してやってくださいね」

えっ!?嫌だよ!

だって死んじゃう人と仲良くなっても辛いだけじゃん!

そういうの苦手なんだよ!

「任せてください。つまらない話でよければ殿下にお話しましょう」

断るのはもっと苦手なんだよな……

バーランド王子は良い人そうだから尚更つらいんだよな…悪人ならよかったのに。

「そうか!兄上も同年代の知らない話を聞けるのなら喜ばれるはずだ!

是非頼む!」

初めてアンダーソン王子の笑顔を見たな。

やはり15歳。年相応な表情はグッとくるものがあるな。

守りたい、この笑顔。でもミランはやらんぞ!





この日は聖奈さんは仕事の為、地球で過ごした。

段々聖奈さんが何してるか読めるようになって来たな。



翌日、昼頃にカイザー様達を水都に送り届け、俺は早速エンガードの城にお呼ばれしていた。


「弟が世話になったな。

昨日聞いた転移魔法というのは…見せてもらえるのか?」

「もちろんです。

流石に許可なく殿下をお連れすることは出来ませんが、見せることに何ら不都合はありません」

ここは王城のサロン。

昨日約束した通り、俺はバーランド王子に会う為にここを訪ねた。

その王子の顔色は、昨日と同じように死期が近いとは思えないくらい血色がいい。

頼まれたのは転移魔法。

それくらいお安い御用!

「おお…では、私を水都に連れて行ってくれないか?もちろん許可は取っている。

こいつも一緒ということが陛下から出された条件だから二人ということになるが…いいか?」

「許可があるなら構いません。そちらは?」

この部屋には三人いる。

もう一人は一言も喋らず、ただ壁に背を向けて佇んでいるだけだ。

歳の頃は15〜18くらいかな?執事服がまだ着こなせていないように見える。

「こいつはアンダーソンに付いているセバスの孫で、将来アンダーソンの専属の執事になる予定の者だ。

今は私の供回りとして修行中だな。名はアーロンという」

「アーロン様ですね。わかりました」

「セイ様。様付けはやめてください。

若輩者ですがよろしくお願いします」

うん。俺もやめてくれ。





王子を伴い水都へと転移した。


「おお…ここが水都なのか!?」

ここは水都の屋敷の一室。

転移で景色が一変したところ、王子は驚愕の声をあげた。

「はい。正確には水都にある、私の屋敷になります。街を歩きましょうか?」

「ホントか!?是非歩きたい!…それとセイ殿。

その様な畏まった言葉遣いはやめてくれないか?

歳はそちらの方が上であるし、何よりも国の英雄だ。同年代の友として扱ってくれ」

えぇ…周りの人の反応がどうなんだ?チラチラ

「セイ様。殿下のわがままを聞いてあげていただけませんか?」

「いや。わがままちゃうやん?」

やべっ!?つっこんでしまった。

「ははっ。その感じで頼む」

「セイ様。水都の治安は…愚問ですね。英雄様が殿下を守るのであればどこでも安全です」

うん。別に俺強くないよ?魔法が凄いだけで。

「ここは俺が知っている限りでは治安は一番良いぞ。

心配せずにアーロンも水都を楽しんでくれ」

「そうだぞ。見聞を広める為にも私に気を使わずに色々見なさい」

「ありがとうございます」



俺たちは屋敷を出て、水都散策へと繰り出す。



「今日は楽しかった。また来てくれるか?」

今日は水都を散策後に城で晩御飯を食べた。食後にまた二人で色々話終えて、俺は帰ることに。

「もちろんだ。明日もまた来るよ」

「おお。車とやらを楽しみにしている。気をつけて帰ってくれ」

王子と別れた俺はリゴルドーへと転移した。





「あれ?聖奈?もう用は済んだのか?」

リゴルドーの家に帰ると、リビングに聖奈さんの姿があった。

「うん。流石に時間がないから調べられなかったけど、医学書は集めて来たよ」

「やっぱりか。調べるのは俺も手伝うよ」

聖奈さんはやはりバーランドの為に地球へ行っていたようだ。

「バレてた?最近セイくんに読まれてるなぁ。もう少し裏をかかなきゃね!」

「いや、無理して騙そうとするなよ…」

「一応私なりに調べたけど、やっぱり似た症状はあるけどぴったり当てはまる病気モノはなかったね」

聖奈さんでも見つけられないなら俺には無理かも。

「特に元の病気はどうにかなっても、禁忌の薬についてはお手上げだね。

薬草自体を向こうの専門家に調べさせても、下手したらとんでもない薬を地球で蔓延させちゃうことになるかもしれないし、魔力がない地球に持って行った時点で薬効が失われちゃうかもしれないしね」

「なるほどなぁ。病状的にはやはり癌か?」

「症状が似ているのはそうだね。

初めはスキルス胃癌を疑ったんだけど、発症から薬を飲むまでに亡くなるから除外したんだ」

スキルス性胃癌か…進行が最も早いとされている癌の一つだな。

「やはり現時点では何とも言えないか…」

「一応薬は幾つか用意したよ」

そういってテーブルに並べられる幾つもの薬。

「これが最新の癌治療に使われているモノだよ。最悪はこれとこれだね」

聖奈さんの最悪とは痛み止めのことだ。

どうしようもなくなれば医療用大麻などで痛みを和らげて、最終的に安楽死させる組み合わせの薬を投与するとのこと。

「時間がなかったから日本で手に入れなくちゃいけなくて苦労したよ。お金も掛かったし」

「サンキューな」

頭を突き出して来たので、甘んじて撫で撫でしておいた。

こんなことで危険を犯して薬を用意してくれたことに報いることが出来るのなら安いものだ。

まだ時間は残されているが……難しそうだ。


アンダーソン王子は受け入れていたが、受け入れられないのは俺の方だな……

どうにかならんかね。

〜ぼっちの月の神様の使徒〜

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