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中村さんは親友であり朱里を好きだからこそ、いずれ二人がうまくいかなくなる事を予測しているだろう。


そこを突くと彼女は悔しげな表情をしたあと、さらに尋ねてくる。


『篠宮ホールディングスに入社したら、立場を利用して朱里に迫るんですか?』


『しない。そうできない理由がある。ちゃんと上司として朱里と君を見守って、適切な距離を保つ』


中村さんは、俺がのらりくらりと躱し、煽った挙げ句「近寄らない」と断言したので面食らったようだ。


彼女は疲れたように溜め息をつき、髪を掻き上げる。


『……篠宮さんが何を考えているのか分かりません』


『朱里に幸せになってほしいだけだ』


中村さんはしばらく難しい顔をして考えていたが、やがて溜め息をついた。


『一旦持ち帰らせてください。……でも、第三者的に見ればいい話なのかもしれませんね。普通に就職活動をしたとして、二人で同じ会社に入れる確率はほぼゼロです。……もしも篠宮ホールディングスに入ったら、朱里と同じ部署に配属されます?』


『勿論』


『……今はまだ高校生ですし、就職活動はまだ先です。とりあえず今は、朱里が目指している四年制の大学に入れるように頑張ります。……あの子、頭がいいから大変なんですよ』


そう言って、中村さんは初めて素の笑顔を見せた。


『それだけは手を貸せないから、応援してるとしか言えない』


『ひとまず大学に入ってキャンパスライフをエンジョイしてから、またお話しましょう』


『君の言う通りだ』


そのあと、俺たちはカフェを出た。


今日話したのは、約束というより遠い日の予約みたいなものだ。


――少しずつ種を撒いていけばいい。


俺は自分に言い聞かせ、車を停めてある地下駐車場へ向かった。




**




その連絡が中村さんから届いたのは、俺が二十五歳、朱里が十九歳の大学二年生の時だった。


うんざりするような暑さに参っていた八月上旬、彼女からメッセージが入った。


【今度、朱里と田村くん、もう一人の男の子と四人でお泊まりデートに行くんです】


「…………は?」


自宅で晩酌していた俺は、スマホの画面に胡乱な目を向ける。


【どこに?】


トントン、とメッセージを打ったあと、俺は舌打ちする。


考えてなかった訳じゃない。付き合っていればいずれキスもするだろうし、泊まりがけのデートだってするだろう。


朱里のビジュアルで、今まで手つかずだったのは奇跡と言っていい。


【教えませんよ。篠宮さん、邪魔しに現れそう】


【いかねーよ】


俺は溜め息をつき、つまみのチーズを食べる。


そのあと中村さんは本当にどこへ行くかを言わず、いつものように朱里の様子などを報告したあとメッセージを終えた。


(朱里が野郎と泊まりだって? その年頃の男が何考えてるか、分からない訳じゃねぇだろ。お前と付き合ったのだって、ソレ目的かもしれねぇし)


イライラした俺は、朱里が田村にヤられてしまうのか、気になって堪らなくなった。


その頃の朱里は芸能人のような美女ぶりに磨きを掛けていた。


周囲の男からは色目で見られているらしいが、人付き合いが苦手なのと、中村さん、田村の存在が防波堤になっているみたいだ。


だがバイト先の居酒屋では酔っ払いに絡まれる事も多いらしく、辞めたあとは客に顔を見られない、飲食店のキッチンスタッフになったらしい。


大学生になって朱里の行動の自由度が高くなってから、俺は常に彼女の事を考えてイライラするようになっていた。


キャンパスではすれ違う生徒が彼女を注目しているようで、密かな有名人になっているのだとか。付き合っている田村はさぞいい気分だろう。


そんな田村が、〝彼女〟とセックスしようと思わない訳がない。


今までは『がっついたら駄目だ』と我慢していたかもしれないが、大学生になればそういう関係になってもおかしくない。


『……くそっ』


吐き捨てるように毒づいた俺は、胸の奥に湧き起こる劣情に気づかないふりをした。






しばらくしてから、中村さんから聞きたかったような、聞きたくなかったような報告が送られてきた。

部長と私の秘め事

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コメント

2

ユーザー

もう、朱里ちゃんに相当に執着しているね…😂💕

ユーザー

なんだろ?????気になるよね〜尊さん🤭俺の朱里だもんね💝

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