テラーノベル
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夕焼けが部屋をオレンジに染めている。
らんの額はまだ、いるまの肩にある。
四分って言ったのに、もうとっくに過ぎてる。
「……時間」
いるまがぼそっと言う。
「まだ一分」
「信用ならん」
「今日は特別」
またそれ。
でも、離さない。
らんの呼吸はゆっくり。
最初よりずっと落ち着いている。
「さっきね」
「ん」
「保健室のドア開ける前、手すごい震えてた」
「見えなくてよかったな」
「見られてたら逃げてたかも」
いるまは少しだけ視線を落とす。
「逃げても別にいい」
「でも今日は逃げなかった」
「それでいい」
らんは少し体勢を変える。
でも完全には寄らない。
肩に触れてるだけ。
それ以上は越えない。
越えないって、ちゃんと分かってる。
「いるま」
「なんだ」
「校門の外にいたの、ずるい」
「何が」
「ちょっとだけさ」
らんは言葉を探す。
「一緒に入ってほしかった、って思った」
部屋の空気が、ほんの少しだけ変わる。
でも。
いるまはすぐに答えない。
数秒の沈黙。
それから。
「まだ早い」
静かな声。
拒絶じゃない。
判断。
らんはうなずく。
「うん、わかってる」
ちゃんと理解してる声。
「ぼくが歩けるとこまで、だよね」
「ああ」
「じゃないと意味ない」
「そうだ」
らんは肩から少しだけ離れる。
でも、今度は袖をつかむ。
指先だけ。
触れてるけど、しがみついてない。
「でもさ」
「ん」
「いつか一緒に入る日、くる?」
いるまは少しだけ目を細める。
「来たら、その時考える」
ずるい答え。
でも否定じゃない。
らんは小さく笑う。
「保留かあ」
「今は距離測ってる最中だろ」
その言葉に、らんは少しだけ安心する。
距離を測る。
近づきすぎない。
離れすぎない。
「ねえ」
らんが言う。
「今日さ、校門越えたとき」
「うん」
「いるま、ちょっと緊張してたでしょ」
一瞬だけ、いるまが止まる。
「してない」
「うそ」
らんはくすっと笑う。
「手、ぎゅってしてた」
ばれてる。
「お前が倒れたら困るからだ」
「守る側」
「仕事みたいに言うな」
「かっこいい」
「やめろ」
でも、否定は弱い。
部屋の光が少しずつ薄くなる。
らんはゆっくり立ち上がる。
「ありがと」
改めて言う。
「校門までで、ちょうどよかった」
いるまは短くうなずく。
「今日はな」
らんは一歩、ソファから離れる。
でも振り返る。
「四分、延長してもよかった?」
「だめだ」
即答。
「次回な」
らんの目が少しだけ輝く。
「次回、あるんだ」
「知らん」
でも、完全否定はしない。
まだ一緒に校門はくぐらない。
まだ境界線はある。
でも。
距離は、確実に昨日より近い。
触れない距離を守りながら、
少しずつ、少しずつ距離は縮まっていた。
コメント
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うん、てぇてぇし、尊ぇ...