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###まだ春を知らない君へ###
第四章 兄のまなざし、そして芽生える焦燥
春歌は、ガラス瓶に入れた桜の花びらを眺めていた。あのムズムズとした感情は、日ごとにその存在感を増している。填真と話すたびに、彼の不器用な優しさに触れるたびに、春歌の心は少しずつ、けれど確実に色を変えていく。それは春夜への情熱的な恋とは違う。例えるなら、凍える冬の後に訪れる、柔らかな陽だまりのような温かさだった。
ある日の放課後、春歌は友人とカフェで新作のパンケーキを食べていた。他愛ない話で盛り上がっていると、不意に視線を感じた。窓の外を見ると、そこに立っていたのは春夜だった。彼は春歌に気づくと、軽く片手を上げてみせた。
「お兄ちゃん、どうしたの?」
春歌がカフェを出て声をかけると、春夜は不機嫌そうに口を開いた。
「別に。お前がカフェなんぞで油売ってっから、迎えに来てやったんだよ」
いつものぶっきらぼうな口調だが、その瞳の奥には春歌を気遣う色が宿っている。春歌は、その優しいまなざしに胸を締め付けられた。やはり、自分の心をこんなにも震わせるのは、この人だけなのだと再確認する。
「ありがとう、お兄ちゃん」
春歌がはにかむと、春夜は少し照れたように視線を逸らした。その時、春歌のスマホが鳴った。画面に表示されたのは「填真」の文字。思わず顔が強張ったのを、春夜は見逃さなかった。
「誰だよ」
春夜の声は、いつになく低い。春歌は、動揺しながらもスマホをポケットにしまい込んだ。
「クラスの子だよ。別に何でもない」
「ふうん」
春夜はそれ以上何も言わなかったが、その視線は春歌のポケットに注がれていた。その日の帰り道、春夜はいつになく無口だった。春歌は、彼の隣を歩きながら、胸の奥で何かがざわめくのを感じていた。兄の春歌への独占欲のようなものが、少しだけ垣間見えた気がして、その理由が分からないまま不安が募る。
数日後、春歌は美術室にいた。文化祭の準備で、クラスの出し物のポスターを描いていたのだ。集中して作業していると、背後から声をかけられた。
「春歌さん、すごいね」
振り返ると、そこにいたのは填真だった。彼は春歌が描いたポスターを、食い入るように見つめていた。
「えへへ、ありがとう。でもまだ途中なんだ」
「これ…春歌さんの春みたいだね」
填真の言葉に、春歌はハッとした。ポスターには、満開の桜と、その中で微笑む少女が描かれている。それは、まさに春歌自身の「春」のイメージだった。
「どうして?」
「だって、すごく綺麗で、優しいから」
真っ直ぐな填真の言葉に、春歌の頬が熱くなる。彼にそこまで見透かされているような気がして、少し恥ずかしくなった。
その時、美術室の扉が開き、春夜が顔を覗かせた。
「春歌、まだいたのか」
春夜は、美術室に春歌と填真が二人きりでいることに気づくと、一瞬だけ表情を硬くした。その視線は、真っ直ぐに填真に向けられていた。填真は、春夜の視線に射抜かれたように、再び体を縮ませた。張り詰めた空気に、春歌の心臓が早鐘を打つ。
「お兄ちゃん、どうしたの?」
春歌が間を取り持つように問いかけると、春夜は眉間にしわを寄せた。
「別に。迎えに来ただけだ」
春夜は填真を一瞥すると、春歌の腕を掴み、美術室を出た。廊下に出ても、春夜は無言だった。春歌は、兄の握る腕の力強さに、言いようのない焦燥を感じていた。まるで、何かを奪われることを恐れているような、そんな春夜の感情が伝わってくるようだった。そして、春歌の心にもまた、この状況が何をもたらすのかという、新たな不安が芽生え始めていた。
お久しぶりです!
長い間お待たせしてしまいすみません。
これからはどんどん出してくので
応援お願いします!
ではまた次回!
#お悩み相談室
ruruha
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ルオ🔹◆
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コメント
3件
おかえりなさい! 待ってました!
おかえりなさい、那月さん!第四章読み終えました…! 春夜くん、あの「誰だよ」の低い声と、填真くんに向けた鋭い視線、もうドキドキが止まらなかったです。「迎えに来ただけ」って言いながら、腕を掴んで連れ出すその力の込め方に、彼の中の独占欲がじわじわ滲んでいて。春歌ちゃんの「春」を真っ直ぐ肯定してくれる填真くんの存在が、春夜くんにとってはっきりと“楔”になってきた感じがしますね…!次話が本当に待ち遠しいです🤍