「腹、減らねぇ?」
さっさとシャワーを浴びてきた佐久間は、普通のテンションで話しかけてきた。
どの顔で、どのテンションで、佐久間と対峙すればいいのか戸惑い、返事をしあぐねた。
「あぁ、そういうこと?」
と、1人納得したような佐久間は一度部屋を出ると財布を持ってすぐに戻ってきた。
「んー、こんなもんか?はい、今日のお手当て!」
カメラの前と同じ笑顔のさっくんが、財布からためらいなく一万円札を抜き取って、俺に差し出す。1枚だけ纏めるように半分に折られているのでおそらく10枚あるだろう。
受け取った瞬間、ずしりとした重みが掌に伝わる。胸の奥に沈む感覚を振り払うみたいに、俺はいつもの笑顔を貼り付ける。
「ありがと〜!やった!なに買おっかなー!」
声は弾んでいた。
でも、自分でわかるくらい、その笑顔は痛々しかった。
佐久間は表情を戻すと、
「そっち、シャワーあるから浴びてきな。あと、昼飯食うんなら一緒に頼んでやる」
と冷たく言い放った。
「は〜い!じゃあ、さっくんと同じもの食べたいな♡」
俺は飛びっきりの笑顔でおねだりした。
届いた牛タン弁当を食べながら佐久間が聞く
「ねぇ、普段なんて呼ばれてんの?」
「辰哉くん、とかっすね」
「……翔太からも?」
「いや、えーっと、、」
一瞬戸惑った隙に佐久間は鼻で笑った
「お前、友達いんの?」
「な!」
それは、深澤が一番突かれたくない質問だった。
が、慌てて取り繕う。
「さっくん辛辣〜!俺にも友達は居ますよっ」
「ふーん……で?なんて呼ばれてんの?」
まただ。
また佐久間のその光を失った視線が、ふっかを射抜いた。
「ふ、ふっか、とか、です。」
逸らしたいのに逸らせない。まるで縫いとめられたように、佐久間の目から離れられなかった。
その無機質な目に囚われて、呼吸さえ浅くなるような。
そんな時、インターフォンが鳴った。
「お、みんな来たかな」
「え?」
「「おはようございまーす」」
翔太を含む数人のスタッフが入ってきた。
「俺、この後ゲームの生配信なんだよね。ふっかはもう帰っていいよ」
「あ……はい、」
廊下ですれ違った翔太が、何か言いたそうな視線を向けてきたが、気が付かないフリをして逃げるようにスタジオを後にした。
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