テラーノベル
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彼の歌を聴いてから1週間経った。あの日以来俺は、毎日昼休みにあの階段の踊り場へ向かった。
「今日もいない、か。」
毎日通った甲斐もなく、彼はあの名前を教え合った日以降、姿を見せることは無かった。
多分ここで歌ってることを誰にも言ってなかっただろうし、ここは彼にとって秘密の場所なのだろう。
俺にこの場所を知られてしまっては、来ることは出来ないんだろうな。
どうしたもんか、と頭を搔くとあるひとつの考えが思い浮かぶ。
「2年A組。」
そういえば、隣のクラスだったな。
普段は自分のクラスメイトとしか過ごさないから、他所のクラスなんて気にしたこともない。
突然クラスまで押しかけたら迷惑だろうか。
またあの時みたいに怖がらせてしまうかもしれない。
それでも、もう一度彼に会いたかった。
まだ昼休みの時間が残っているのを確認した俺は、彼のクラスへと急いだ。
小走りで廊下を通れば、「おい、勇斗~。」と数名の生徒に声をかけられる。
「ごめん、急いでる。」と言いながら、俺は足を止めることなく2年A組に辿り着いた。
次の授業まで時間があるからか、教室の中は生徒がまばらだった。
開いていたドアから教室内を覗く。
すると、一番後ろの席で本を読んでいる彼を見つけた。
えっと、確か名前は…。
「吉田くん!!」
教室の入口から大きな声で呼ぶ。
他の生徒たちは驚いて俺の方を見るが、彼だけ全く反応がない。
気づいていないのか?
「あ、吉田くん多分イヤホンしてるから聞こえないと思う。呼んでこようか?」
扉の近くでお喋りをしてした女子グループのうちの一人が、気を利かせて声をかけてくれた。
申し訳ないとお願いすると、彼女は吉田くんの机へと向かう。
人が近づいてきても気づかないなんて、どんだけ自分の世界に入り込んでるんだよ。
彼女が吉田くんの肩を叩くと、効果音が付きそうなくらい驚き、俺の方へ視線を向けた。
俺がこっちこっちと手招きをすると、重い足取りでこちらへ歩き始める。
絶対怖がってるじゃん、分かりやすすぎでしょ。
「あ、あの……何ですか…?」
「急にごめんね。こないだの事もう一度ちゃんと謝ろうと思って。」
そう言うと、吉田くんは「こないだの事……。」と小さな声で呟き、大きな目を見開いて下を向いてしまった。
耳が真っ赤だ。
相当恥ずかしいんだろう。
にしても、本当に分かりやすいなこの人。
「忘れてください……///」
「大丈夫!周りに言いふらすようなこと勿論しないし、何より吉田くんめっちゃ歌上手かったし!」
俺が吉田くんの歌を褒めると、吉田くんは顔を上げ、俺の顔を見ながらパチパチと瞬きをした。口が半開きになっている。
え、俺変なこと言ったかな。
「……僕、……歌上手いんですか?」
何を言っているんだこの人は。
一般人のカラオケが得意とかそういうレベルじゃない上手さだったぞ。
普通にアーティストとして成立する位だ。
自分の歌の上手さを知らない?そんな馬鹿な。
「超上手かったよ!カラオケで友達とかに褒められたりしないの?」
「カラオケ…………行ったことなくて。」
衝撃の事実2個目。
マジかよ、今どきの高校生でカラオケ行ったことない人とかいるのか?
あんだけ上手ければ、皆の前でちょっと歌っただけで人気者だろうに。
そうか、カラオケ行ったことないのか。
「じゃ、じゃあさ。今日の放課後暇だったら俺とカラオケ行かない?吉田くんの歌もっと聞きたい。」
「え…えっ!?!?」
「嫌、かな?」
「嫌じゃないけど……でも俺と行っても楽しくないと思うし…。」
強引で嫌な奴に思われるだろうか。
でも、ここで強引に誘わなかったら吉田くんとの縁は終わってしまう気がする。
「っ行こうよ!俺、めっちゃくちゃ盛り上げるから!!絶対、楽しい!!」
俺が力強く説得すると、吉田くんは肩を震わせ、大きな目を細めながら笑い始めた。
「ふふっ……何それ、いいよ。行こうか。」
「本当!?ありがとう!!」
吉田くんが承諾してくれたその時、丁度のタイミングで昼休み終了のチャイムが鳴る。
「あ、やっば。俺教室戻るわ。」
「うん、気を付けてね。」
「サンキュ。じゃ、放課後に校門で待ってるから。」
そう約束を告げると、俺は慌てて自分の教室へ戻った。
周りからどこへ行ってたのかと茶化されるが、そんなのは耳に入ってこなかった。
早く、放課後にならないかな。
そんなことを思いながら、吉田くんのさっきの笑顔を思い出すのだった。
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