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(仮)愛人契約はじめました

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(仮)愛人契約はじめました

22 - 愛人(?)としてお披露目されることになりました7

♥

19

2024年10月06日

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夢の中、唯由はひとり、真っ暗なあの道に立っていた。


練行が空をサーチライトで照らすと、黒い空に白くてまんまるな月が現れた。


そこから天女な月子が舞い降りて、暗闇なので気づかなかなったが、少し前を歩いていたらしい蓮太郎を迎えに行った。


いやいや、ちょっと待ってっ、と思う唯由に蓮太郎が振り向いて言う。


「王様ゲームはもう終わったんだ、唯由」


なんで、今、唯由って呼びますかーっ、と思っているうちに目が覚めた。




「あっ、唯由ちゃんだっ。

ここ、座っていい?」


月曜日。

いや~、片付け、手間取ってるうちにみんなに置いてかれちゃってさ~と言いながら、社食で紗江が前に座ってきた。


「お疲れ様です。

どうぞ~」


唯由も昼休みをつぶして、お客様の応対をしていたので、ひとり遅れて食べに来たのだ。

すでに一時を回っているので、社食は空いていた。


「紗江さん、がっつりですね」


ハンバーグにグラタンにパンにとたっぷり並んだ紗江のトレーを見ると、

「歳のわりに食べるのよ、私~」

と笑って言う。


確かに学生並みの食欲だな、と思っていると、

「そういえばさー、れんれん、唯由ちゃんに言いたいことがあるみたいでさー」

と何故か最初にゼリーの蓋を開けながら紗江は言ってくる。


言いたいこと?


唯由はぎくりとする。


夢の中、他人を見るような目で自分を振り返り言った。


「王様ゲームはもう終わったんだ、唯由」

という蓮太郎の言葉を思い出していたが、紗江は瀬戸内レモンゼリーを食べながら、真逆なことを言ってきた。


「れんれん、唯由ちゃんの料理、食べてみたいけど、自分からは言い出せないみたいだよ。


まあ、本人が言わないのに、私の口から言うのも悪い気がするからさー。

私は教えないんで、自分で、れんれんから、なにか悩みでもある~? とか言って訊き出してみて~」


……いや、全部言っちゃってますけど。


「瀬戸内レモンってつくと、なんでも美味しそうなの、なんでだろうねえ」

と言う紗江とホッとしながら、楽しく食べた。


でも、なんでホッとしたんだろうな。


王様ゲームが終わりなら、それでもういい気がするのに。

もうこの下僕が王様に振り回されることもなくなるのに。


そう思いながらも、家に帰った唯由は、日曜日に買った料理本を眺めていた。


そういえば、なにが好きなのか知らないな~。


呑み会のとき……


ピスタチオよく食べてたな。


ピスタチオか。


あとはカシューナッツ。


ナッツばっかりだな。


そんなことを考えながら、うとうとしていたら、電話が鳴った。


蓮太郎だった。


「今、なにしてるんだ」

「料理の本見ながら寝てました」


寝ぼけていたので、そう言ってしまい、あ、しまった、と思う。


そっと話題を振るつもりが、思い切り、殴りかかる感じに言ってしまった。


「……そうか。

俺は今、仕事終わったんだが。


夜食でも食べないか? 今から」


「何処ですか。

迎えに行きますよ」

とつい言ってしまい、


「まだ迷ってない。

会社出てないから」

と不機嫌に言われる。


はっ、寝ぼけていたせいか。

思っていることを包み隠さず言ってしまうっ。


いや、この勢いに乗って、思っていることを言うべきか?

と思った唯由は、じゃあ……と言った。


「じゃあ、うちに食べにこられますか?

軽くなにか作りますよ」




寝ぼけていたな、完全に。


スマホを切ったあとで、唯由は正気に返って焦る。


作りますよって今、言った? 私。

え? なにを作るつもりですか、私。


材料ありましたっけ? 私。


動転しながら、唯由は義母に電話する。


「お義母様、まだ起きてらっしゃいました?」


「唯由さんなの?

あなた、なにをして……」


「お義母様、私が作る夜食、なにがお好きでしたっ?」


唯由は何度も振り返りながら、早口に訊く。


今にも蓮太郎の車が入ってきて、ヘッドライトで窓が明るくなりそうな気がしたのだ。


「え?

シンプルに中華粥とかかしらね」


「そうですか。

ありがとうございますっ」

と唯由はスマホを手に頭を下げた。


「いや、ちょっとなんなの、あなたっ。

いつ帰ってくるのっ?


あなたがいなくなったせいで、私は外食ばかりよっ」


いや、呼び戻した腕のいいコックがいるではないですか……。


だが、相手が誰であれ、その目的がなんであれ。

必要とされるのは嬉しい。


「……今度、三条になにか届けさせますよ」

そう言って、唯由はスマホを切った。



窓の外が明るくなり、チャイムの音が鳴る。

蓮太郎が自転車の人に連れられ、現れた。


「いや、この人、その辺で迷ってたから」


自転車で車を先導してくれたらしい。

すみませんすみません、と唯由は頭を下げ、上がってお茶でもと言ったのだが。


「いやいや、そんな野暮はしないから。

じゃ」

と苦笑いして、彼は帰っていった。


蓮太郎と連絡先の交換をしたあとで。


「どうぞおあがりください」

と唯由は蓮太郎に上がるよううながす。


「いや~、今、寝ぼけて、夜食作りますって言ったけど。

正気に返って焦っちゃって。


なに作っていいかわからなくて。

お義母様に電話しちゃいましたよ」


ははは、と笑ったあとで、

「中華粥でいいですか?」

と言ったのだが、蓮太郎は呆れたように言う。


「それ、どの時点でも正気に返ってなくないか……?」

と。





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