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第6話(最終話):サンタまた空を駆ける。
夜空の光が、ひとつ、またひとつと消えていく。
風が落ち着き、遠くで小さなプロペラ音が次第に薄れていった。
サンタ技術部の操縦拠点では、青年・大河が画面を見つめていた。
焦げ茶の瞳が疲れを帯び、それでも安堵の色を宿している。
彼の赤いベストの肩には、雪の粒が溶けかけて光っていた。
「全機、帰還確認。……これで今年も無事完了だ」
ヘッドセットを外し、
屋根の上から見下ろす町は、ほんのりと緑の灯りに包まれていた。
その頃、プレゼンターサンタの山田は、最後の家の前に立っていた。
背丈は低く、がっしりした体格。赤い服の下には厚手のセーターを重ね、
口ひげの隙間から息が荒く漏れていた。
「いやぁ……全部の家、まわりきった。やっぱり届け甲斐があるな」
帽子を脱ぐと、額にうっすら汗がにじむ。
子どもたちの笑い声が、遠くからまだ聞こえてきた。
町内会館では、ママさんバイヤーの真紀が椅子に腰を下ろしていた。
ショートカットの髪が乱れ、コートの袖口には包装紙のリボンが絡んでいる。
彼女の隣では、紗季が子どもから届いた写真を眺めていた。
そこには、例の“おばあちゃんの手紙”を受け取った少女が、
封筒を胸に抱えて笑っている姿が写っていた。
「ねぇ真紀さん、この子……笑ってる」
「うん、ほんと。文字、下手だったけど、ちゃんと届いたんだね」
紗季の目尻が少し潤み、真紀が優しく肩を叩いた。
外では雪が静かに舞っていた。
ドローンの帰還灯がゆっくりと消え、空には星だけが残る。
大河が最後に見上げると、雲の切れ間を横切るように、
緑と赤の光が一瞬だけ流れていった。
「……おかえり、サンタ」
その小さなつぶやきが夜に溶け、
町の屋根を照らすように、光がもう一度だけ――静かに、空を駆けていった。