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変わらぬ日常を過ごす星縁陣(せえじ)。つい先日までは容姿端麗、スタイル抜群
声質をも、そこか人間とはかけ離れていると思えるほどの天使や悪魔と過ごしていたが
現在、そんなこと夢だったかのように、目の前に出された商品をスキャナーでバーコードを読んで
現金をもらってお釣りを渡したり、ホットスナックを揚げたり、言われた番号のタバコを探して
スマホで決済したり、本当にただ過ぎる日々のお手本を過ごしていた。
しかし、ただ過ぎる日々を生きれば生きるほど死の悪魔、ビガードンと最初に会ったときにセリフ
「市野星縁陣(せえじ)様。来年の今日。お亡くなりになられます」
というあのセリフが克明に頭の中を反芻し始める。ただただ昨日も今日も明日も明後日も変わらない
ただただ過ぎ行く日々だと考えれば考えるほどにビガードンのセリフがついて回ってくる。
正直まだビガードンの言葉を信じきれていないところがある。
それこそ医者に行って、医者の口から重苦しい口調で、それこそドラマのように
「…大変申し上げにくいのですが。…市野星縁陣(せえじ)さん。
現在の健康状態ですと、保ってあと1年かと…」
と言われでもしたら。と頭の中でシミュレーションした星縁陣だが
あ、たぶんショックすぎて受け止められないわ
とどちらにしろ受け止められないと思った。しかし、悪魔と名乗り、羽や角を見せられたとはいえ
あまりに現実的ではない自称悪魔からの言葉と医者からの言葉とでは信憑性、重みがまるで違う。
しかし、間近でこの世のものとは思えない、そして作り物とも思えない角と羽を見た。なので、ビガードンの
「市野星縁陣(せえじ)様。来年の今日。お亡くなりになられます」
というセリフも
いやいや、ないない。冗談冗談
とは片付けられないのである。いつもの時間にバイトが終わり
「これ持ってっていいよ」
という飲み物をありがたくいただき、家へと帰る。家に帰り、手洗いうがいを済ませ、部屋着に着替え
録画したドラマやバラエティ番組を見ながらコンビニのお弁当を食べる。
食べ終わるとタブレットを持ってソファーに寝転がる。メモアプリを開き、小説の続きを書く。
電気代節約のため、夜ご飯というか夜食というかを食べ終わったらすぐ部屋の明かりを消す。
テレビの目まぐるしく変わる画面の色とタブレットの人工的すぎるブルーライトで
部屋、そして星縁陣(せえじ)の顔が照らされる。あまり手が進まない。アリバイ、トリックを思いついたのだが
その周囲を固める会話などの肉付けも1歩間違うとアリバイに支障をきたすため、慎重にならざるを得ない。
テレビを見て、書かなきゃと思いタブレットに視線を移す。
少し書いてテレビを見て、また書かなきゃと思いタブレットに視線を移す。それの繰り返し。
あっという間にベランダに出るためのスライドドアから見える空が白み始めてきて
タブレットの上部の時刻を確認すると6時2分。特にこれといって進捗はないまま朝を迎えた。
冷蔵庫から納豆とパックのお米を出してテーブルの上に置く。
グラスに牛乳を注いで飲む。朝って感じがする。牛乳特有の匂い。
牛乳が苦手でなければ、匂いなんてする?なんていうレベルだが
嫌いな人からすると牛乳の匂いが苦手らしい。そんな匂い。
ほぼ毎朝牛乳を飲んでいるのだが、たまに、たまに牛乳を飲んでいるときに思い出す。小中学校のときのこと。
星縁陣(せえじ)が小学生、中学生のときは瓶で牛乳が提供されており
紙の蓋がなかなか取れなかったり、蓋の上だけが捲れてしまったり
牛乳が苦手な子が牛乳が好きな子の机に牛乳を置いていって
机の上が牛乳の瓶で覆われた牛乳の王みたいな子がいたり、牛乳1つで過去の思い出が蘇る。
ひさしぶりに瓶の牛乳が飲みたくなるが、現在、給食で提供されている牛乳は紙パックが基本。
なのでそもそも現在の日本に置いて、瓶の牛乳は絶滅危惧種。
老舗の銭湯などにしかないだろう。それを思うと少し寂しくなる星縁陣。
星縁陣からしたら中学生の頃は16年程前。小学生の頃なんて、もう19年程前である。
小学生の頃はもちろん、中学生の頃も当たり前に明日が来るものだと思っていた。
当たり前のように1年が過ぎ、春が来て、進学したり
新しいクラスになって、新しいクラスメイトと会ったりできると思っていた。
どれだけ1日を無駄に過ごそうが、来年が、再来年が来ると思っていた。
そして実際問題、小学校を卒業し、中学へ進学。中学校を卒業し、高校へ進学。
高校を卒業し、大学へ進学。大学をも卒業できて今に至ることができた。
そして今年もただなんてことのない、変わり映えのほぼしない日々を無駄に過ごし
来年もそんな1年を送れるものだと思っていた。しかし
「市野星縁陣(せえじ)様。来年の今日。お亡くなりになられます」
真偽のほどは定かではないが、そんなことを言われたら不安になるのが人の性。
星縁陣(せえじ)も例外ではない。しかし眠気には勝てず
「…っ…はぁ〜…っ…あっ…」
あくびが出たので寝ることにした。
〜
「市野くん。市野くん」
星縁陣(せえじ)は爪入り、学ランを着て教室にいた。
「なに?」
クラスメイトの女子が話しかけてくる。
「なんで津軽弁じゃなくなっちゃったの?」
「いや、そっちだって標準語じゃん。東京来たら自然と標準語になるって。
あと働いてれば自然と標準語になるよ」
「そうなん?」
「そうなの。東京来て生活してればわかるって。物価も高い
家賃だって、青森の家の100分の1くらいの広さで同じ値段かそれ以上の家賃払わんといけないんだから」
「うわぁ〜。嫌だね」
と喋っていた中学校のときにいた同級生の女の子が急に姉に変わり
「もうそった大変だば青森さ帰ってぐればいばって」
と急にびっくりするぐらい鈍った。かと思えば
今の今まで中学校の教室で学校の机を目の前に、学校の椅子に座っていたが
急に実家の炬燵に足を突っ込んでいた。
「いや…」
「りんご農園継げばいびょん。早々さ夢なんて諦めで」
「…」
なにも言えないでいると炬燵の中の足が下にぶらーんと垂れ下がったと思った途端
体もスッっと落ちていき、上空に炬燵の天板の裏側と骨組みの裏のヒーターが見えた。
なんともいえない浮遊感を感じた瞬間
「っ!」
目が覚めた。夢だったらしい。
「っ…。はぁ…」
まだ心臓が激しく動いている。深呼吸をして落ち着ける。深呼吸をしながらも頭に手をあて
嫌な夢見たな
と覚えている夢のことを考えた。
「ひさしぶりに津軽弁聞いたわ」
大学進学を機に東京に住み始めて早10年以上。年に数回青森の実家に帰るとはいえ
もう標準語、東京に来る前は東京弁と言っていた、訛りのない訛りが馴染んでしまっていた。
「…そういえば夢って匂いないよな」
なんて言いながら歯を磨いて顔を洗い、お昼ご飯を食べた。
テレビを見ながらお昼ご飯を食べているときもどこか前日に感じていたことが頭を巡る。
あと1年
そんなことを考えていたら、いてもたってもいられなくなり、部屋着から普段着に着替え、外に繰り出した。
本当なら真新宿や甘谷に繰り出したいところだったが、平日昼間のひさしぶりの外出。
真人間や陽キャの巣窟、真新宿や甘谷は怖かったので大吉祥寺に行くことにした。
改札からホームに入り、電車を待つ。別に誰と待ち合わせをしているわけでも
なにをしに行くわけでもないのに、ただ電車を待っているだけで、変に緊張する。
これが普段ほとんど人と関わらない人の心境なのである。電車に乗り、終電まで行く。
終電につき人々が電車から降りる波に飲まれるようにして星縁陣もホームに降り立つ。
改札を抜けて外へ。大吉祥寺ムーンロード商店街という賑わっている方へ出た。
するとそこには3月とは違う香りが漂っていた。
4月半ば。入学式、入社式を経て、新しい生活が始まる人々の匂い。
中学、高校の入学式なら新入生という真新しい生活が始まるという、友達できるかな?
仲良い子同士で受験した子たちもいるだろうし、輪の中に入っていけるかな?
学校生活楽しいかな?などといったワクワクと緊張と不安の折混ざる匂い。
大学の入学式なら、中学と高校同様に、友達できるかな?
仲良い子同士で受験した子たちもいるだろうし、輪の中に入っていけるかな?
学校生活楽しいかな?などといったワクワクと緊張と不安という中に
上京してきた人たちは東京への怖さ、そして憧れ
一人暮らしをする人は、今まで誰かがやってくれていたことを
これから1人でやらなくてはいけないという不安、逆に1人の空間を謳歌できるという嬉しさ
さらに大学というおそらく人生で一番の自由時間への期待感
髪を染めたりピアスをしてみたり、そんな色めきの方が大きいかもしれない、微かに残るブリーチ剤の香り
その香りを覆うシャンプー、コンディショナーの香り、香水の香りなどの匂い。
大学を卒業しても就職をしない人、もしくは大学を途中退学した人なら
これからどうしようという不安感、大学というしがらみから解放されたスッキリ感
入社式なら学生という皮がまだ剥けきれていないのに社会に放り出された不安感
会社でやっていけるのかという不安感。様々な人々の新しい生活が始まる、そんな始まりの香りが漂っていた。
どこか寂しさを感じた3月の香りもどこか爽やかさを感じたが
4月半ばの始まりの香りもどこか爽やかさを感じる。
しかし3月よりは色濃く、様々な感情渦巻く複雑な香りに感じた。
そんな始まりの香りに気圧されそうになったが大吉祥寺を歩いてみる。
笑顔の人々で賑わい、カップルや、大学生であろうか?私服の男子数人のグループ
女子会をするのか、女子数人のグループなど
星縁陣(せえじ)から見たら誰もが誰も、とてもキラキラ輝いて見えた。
そんなキラキラ輝く人々の中、星縁陣はただなんの目的もなく歩いた。
ただ家にいて、バイトまでの時間をいつも通り過ごし、そんな1年が過ぎ去ると考えると怖かった。
ただそれだけの理由。本当にただそれだけで飛び出してきた。しかし、ひさしぶりに嗅いだ香りだった。
かつては自分もその香りの一部だったことを思い出していた。
大学進学を機に青森から上京し、一人暮らしを始めた。大学生活を謳歌するんだ!と意気込んでいた。
私服だって東京人に舐められないように気を遣った。それこそ香水だって買った。
バイトだって始めた。大学で男友達ができて、女友達ができて
男女のグループで遊んで、いい感じになって彼女ができて
男友達が彼女と別れて、慰め会をして、その彼女と別れた男友達が誘ってきた合コンへ行って
そのことが彼女にバレて喧嘩して、でも仲直りして
大学の講義の最中に小説を書き続けて、投稿サイトに投稿したり
コンテストに応募したりし続けて、大学4年のときにはネットで有名になったり
なにかしらのコンテストに通ったりして、出版を目の前に小説を書いて
大学卒業とほぼ同時に処女作となる小説が文庫本、書籍化されて本屋に並んで
彼女や男友達にサインをせがまれて、嫌々、でも内心ドヤ顔でサインして
祝賀会をしてもらって、26歳くらいで彼女と結婚。28歳くらいで子供を授かって…なんて考えていた。
しかし、実際現実はそんな夢物語ではなかった。男友達はできたものの、女友達はできず
男友達も合コンを開くようなタイプではなかった。しかし大学2年のときに奇跡的に彼女ができた。
さらに奇跡的なことにその彼女とは長続きした。
しかし、バイトをしながら大学に通うことは簡単ではなかった。
カラオケ店でバイトをしていた。時給が高いのは深夜帯。
なので星縁陣(せえじ)も深夜帯にシフトを組んでいた。帰るのは必然的に朝。
すると必然的に午前中の講義は出られなくなる。結果的に星縁陣は1年留年した。
彼女はというと必死の就職活動が身を結び、就職先が決まり、4年間でしっかり卒業した。
そんな彼女と、1年留年している星縁陣。彼女は社会人1年目、新しい生活でてんやわんや。
卒業のための講義だったり、卒業論文のための調べ物、さらに小説を書くことで忙しかった。
半同棲していたので、会う機会が減るということはなかったものの、彼女は社会人1年目。
様々なことで疲れて、帰っても会話をあまりすることなく寝て朝起きて仕事へ。
星縁陣は朝寝ていたため、2人はすれ違い始めた。
次第に彼女と折り合いが悪くなり、結果的にお別れすることになった。
星縁陣は彼女との将来を考えていたので、彼女と別れることになったせいで精神的に落ちた。
そのせいで就職活動ができなかった。精神的に落ちて引きこもっていた期間も小説の世界に救われていた。
中学生、高校生の頃から小説家を目指していたが
小説に救われたという経験から、なおさら強く小説家を目指すようになってしまった。
そんなこんなで今に至る。そんなドロッっとした過去を思い出しながら
キラキラした人々の中、キラキラした街を歩いて行った。
靴屋に入ってカッコいい靴を見て、欲しくなったが、値段を見て諦めたり
服屋に入ってウィンドウショッピングなるものをしたり、買い替える予定もないのに家電を見たり
特になにも買いはしなかったが、いろんなお店に入って見て回った。
普段しないことをしたせいか、時間が過ぎるのが早く感じ
バイトの時間が迫っていたので、家に帰り、いつも通りバイトへ向かった。