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「清心さんも記憶がないんですか……?」
「んー、お前ほどじゃないけど」
実際、ケースが違い過ぎるので笑って誤魔化す。それでも彼は辛そうに顔を歪めた。
「すいません。俺、自分のことばっかりで」
「はは。俺の方が百倍は自分勝手だ」
何となく。ただ、話し相手が欲しかったんだろう。清心は昔のことを匡に話した。
中学時代、仲の良い男の友人がいたこと。
彼から告白をされたこと。
同性愛者だと知られたくなくて、心無い言葉をぶつけてしまったこと。
────それを今も後悔してること。
「謝りに行こうと思うんだ。俺のこと死ぬほど怨んでるかもしれないけど、それでも絶対このままにしちゃいけないから……どんな目に合ってもその子に会いに行く」
時間は、もう十一時を越していた。思ったよりも長く、深く話し込んでしまったようだ。
匡は頷いて、否定も肯定もせずに耳を傾けてくれていた。
「やっぱり、清心さんって良い人ですね。名前のとおり、綺麗な心を持ってる」
「本当に綺麗な心だったら、友達を傷つけるようなことは言ってないよ」
苦笑しながら返すと、彼は首を横に振った。そして自分の手元を見ながらゆっくり口を開く。
「子どものときって自分のことで精一杯だから。気持ちと相反する行動をとっても仕方ないと思います。きっと俺もそうだった。……友達は少ないけど、大好きな子がいた気がするんです。その子にもう一度だけ、会いたいな」
匡は懐かしそうに目を細める。口もとは笑っているのに、どこか愁いを帯びて見えた。
名前も顔も分からない親友。もし会えるなら、「ごめん」と「ありがとう」だけ伝えたい。彼はそう言った。
俺も同じだ。
大事な人を傷つけた。それから彼を捜そうともせず、逃げ続けた。十年も時が流れてしまったけど、これからはもう逃げたくない。
白露が、きっとあの頃の自分の親友だ。
十時十分、あの十字路で彼が見つけてくれたから───俺は、十年前の彼に会うことができたんだ。
じゃああの世界は……。
どこまでも続く、純白の空間。あれは白露の精神世界そのものかもしれない。
誰でも行けるわけではなく、白露が俺を呼び寄せたから行くことができたんだ。
彼はたまたま迷い込んでしまったと言っていたけど、自分で自分を閉じ込めているだけかもしれない。