コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「へぇ〜・・結構おしゃれ!なんか大人の部屋って感じ」
駿の部屋に入った梓は物珍しげに辺りを見回す。
「というか、高校生がこんな時間に出歩いてお母さんは何も言ってこないのか?心配してるんじゃないのか?」
時刻はすでに20時を回った頃だった。そんな時間まで年頃の娘が連絡なしに外を彷徨いていては、親の立場としては気が気ではないだろう。
「あれ?先生に話した事なかったっけ?お母さんは深夜のスーパーで仕事してるから、今は家に居ないの」
「ああ、そういえば、家庭訪問の時に、そんな話聞いた記憶あるな」
「だから、今は家に誰もいないから大丈夫!あ!だからってお母さんに連絡するのは禁止だからね?そんなことしたら」
「バラすって言うんだろ?」
「その通り!分かってるね!先生」
梓は駿の肩を優しくポンポンと触りながら言う。
「というか、これが条件なのか?」
家にあげてという梓からの条件はこれで達成された。
達成されたのだから、梓は帰るのだろうか?などと心で思っていたが、それを口にする訳にはいかない。
しかし、そんな駿の考えなどお見通しといった様子の梓は「帰れっていいたいの?」と不貞腐れた様子。
「あ、いや、そうじゃなくて、なんというか、他に条件あるのかなー、と思っただけだよ」
梓に全てを見透かされた駿は、梓をなだめるように言う。
「うー・・・ん、そうだなぁ」梓は少し考えて
「手料理が食べたいな❤︎」「え?手料理?」
「そう!先生の手料理!私まだご飯食べてないからさ、なんか作ってよ❤︎」
梓は駿の腕に自分の腕を絡ませ、上目遣いで言う。
「わかったよ。でもちょっと待ってろ!冷蔵庫に何かあった筈だから、確認してくる」
「わかった❤︎」
駿はキッチンへ行き、何か作れるものはないだろうかと冷蔵庫を物色する。
「うー・・・ん、そうだなぁ・・・」
「何かあった?」部屋から梓が顔を覗かせる。
「ナポリタンなら今すぐ作れそうなんだけど、ナポリタンでいいか?」
「ナポリタン?私大好き❤︎」
「そう?よかった、ならすぐ作るから、部屋で待っててくれ」
「はぁ〜い❤︎」
そういうと梓はウキウキ気分といった様子で部屋へ駆けていく。
駿は小慣れた手つきで快調に調理を進める。
ナポリタンが完成に近づくにつれて、キッチンにはケチャップの甘い香りが広がっていく。
そんな香りが部屋にまで届いたのだろうか、梓がキッチンへやって来た。
「ん?金森?もうすぐナポリタンできるからな!」
駿が優しく語りかけるが、梓は黙ったまま駿を見つめていた。
その目はどこか寂しげで、今にも泣き出しそうな目をしていた。
「金森?どうかしたか?」
そんな梓の異変に気づいた駿は、ガスコンロの火を止めると、ゆっくりと歩み寄る。
「どうかしたのか?」
「先生・・・」
梓は涙を流しながら、時折鼻をすすりながら駿に抱きつく。
「か、か、金森!?」突然の出来事に驚きと恥ずかしさが入り混じり、複雑な気持ちになる駿。
「先生?今日ね?私・・泊まったらだめかな?」
梓は涙を流しながら駿に訴えかける。
「え?と、泊まる!?で、でもそれは」
駿の言葉はそこで途切れる。
ずっと涙を流しながら自分に抱きつく梓を見つめ、心が揺れ動く。
何辛い事があったのかもしれない。しかし、泊めてしまっては、翌朝母が帰宅した際に、娘が居ない事を不審がるかもしれない。
それを警察に相談されようものなら、事は2人だけの問題じゃなくなってしまう。
考え抜いた駿は「ま、まぁ、とりあえずナポリタン出来るからさ、詳しくは食べてから話そう!な?」
答えを先送りにするしかできなかった。
梓は黙ってうなづき、部屋へと戻っていく。
「金森・・・」駿はそんな梓の小さく見える背中を、不安な眼差しで見つめる
食事を終えた梓は、落ち着きを取り戻したのか、笑顔を見せるようになった。
「ごちそうさま❤︎」梓は両手を合わせる。
「どうだった?口に合ったかな?」
「うん!めっちゃ美味しかった❤︎先生って料理上手だったんだね」
「いや、ナポリタンだぞ?こんなの材料が揃ってれば誰でもできるよ!大袈裟だよ」
駿は嬉しいような恥ずかしいような、複雑な気持ちになり頬を染める
「それって、料理が出来ない私への嫌味?ショックゥ〜」
梓は不貞腐れた様子で頬を膨らませる。
「い、いや、そうじゃない!金森だってやってれば上手くなるって!」
「そうかな?」
「ああ!俺だって18から一人暮らしするまでは、袋入りのラーメンしか作った事なかったんだぞ?金森はまだまだこれからだよ!」
「ありがとう❤︎先生❤︎」
「それと、さっきの話なんだけどさ・・・」
駿は思い切って先ほどの涙の理由を梓に問いただす。
「何があったのか?それに泊まりたいって・・あれってどういう」
駿の言葉を遮るように梓が立ち上がる。
「ん?どうかしたか?」
「先生に・・関係・・ないから」
梓は目を逸らしながら呟く。
「関係ないって・・そんな事言うなよ。俺・・金森が心配なんだ」
「先生には迷惑かけないからさ!じゃあ帰るね。ナポリタンご馳走様!美味しかった」
梓は足早に帰ろうとするが、そんな梓の腕を駿が掴む。
「ま、待て!金森!!」
駿はなぜ梓の手を掴んだのかは分からない。
しかし、なぜかこのまま梓を家に帰してはいけない。無意識にそう感じたのかもしれない。
「離して先生!先生には関係な」
「泊まっていけばいい・・・」
「え?」駿の言葉を聞き、梓は駿の方へ振り返る。
「で、でも・・先生・・迷惑じゃ・・?」
「迷惑なんて思わないよ」
駿は優しい表情で語りかける。
「ぐすっ・・・」梓は涙を流しながら駿に抱きつく。
「ごめんなさい・・私・・寂しかったの・・
そんな寂しさを紛らわそうとして・・私・・先生に・・」
「わかった、わかった、無理して言わなくていいよ・・何か辛い事があったんだよな?」
駿は梓の体を抱きしめ、頭を優しく撫でる。
「先生・・・」
「その代わり今日一晩だけだぞ?そんなにしょっちゅう教師が教え子を泊める訳にはいかないからな?」
「う゛ん゛・・」梓は嗚咽混じりに涙を流しながら、力強く駿の体に抱きつく。