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執務室で想いを通じ合わせたあの日から、屋敷の空気はどこか柔らかくなったように感じられた。
けれど、肝心の「夜の営み」については、シュタルク様が耳まで真っ赤にして
「後日」と約束したきり、進展がないまま数日が過ぎていた。
静まり返った夜の静寂の中、私は意を決してシュタルク様の寝室を訪れた。
彼が「入っていい」と低く応じた扉の先。
主を待つ広いベッドに、私たちは並んで腰を下ろしていた。
マットレスが沈み込み、彼と肩が触れそうなほど近い。
それだけで心臓が早鐘を打ち、口の中が乾いていくのが分かる。
「…メリッサ。そんなに緊張しなくていい」
シュタルク様が、私の強張った手をそっと包み込んでくれた。
その大きな掌は驚くほど熱く、けれど酷く繊細に私を扱っている。
「はい…でも、今日こそはちゃんとお聞きしたいなって」
私は膝の上で指を絡め、ずっと喉の奥に引っかかっていた言葉を口にした。
「そう言えば……この前は聞きそびれたんですけど。シュタルク様、私が以前お誘いしたときに『汚したくない』って仰っていましたよね?」
シュタルク様の手が、一瞬だけピクリと跳ねた。
彼は気まずそうに視線を彷徨わせ、低く唸るような声を出した。
「……それか」
「はい。私、あのとき……」
私は恥ずかしさに俯きながら、正直な胸の内を明かす。
「私を抱くことで、シュタルク様の大切なご自身の服や、お体が汚れてしまうのが嫌なのかな……って。そんな風に思っていたんです。でも、どういう意味だったのかなって、ずっと気になっていて」
私の見当違いな推測に、シュタルク様は驚いたように目を見開いた。
そして、耐えきれないといった様子で、深々と吐息を漏らす。
「……それは、違う。俺自身の服がどうこうなんて、そんな些細なことではないんだ」
彼は繋いでいた手にぐっと力を込め、私の瞳を射抜くように見つめ返した。
その瞳の奥には、これまでに見たことのないような、昏くて深い、執着の熱が揺らめいている。
「君自身を…あまりに白くて、純粋で、ひたむきに俺を想ってくれる君を、俺のどろどろとした欲望で汚してしまうのが嫌で……だから、そう言ったんだ」
「私を…汚す?」
「あぁ。こんなにも強く君を求めながら、手を出すことができずにいたのは……」
シュタルク様は自嘲するように微笑み、握りしめた手を額へと押し当てた。
「もし一度でも触れたなら、君の全てを自分のものにしようと暴走してしまう気がした。理性など粉々にしてしまうほどに激しく求めてしまいそうで……」
「シュタルク様……」
「だが今日はもう迷わない」
彼は顔を上げると同時に立ち上がり、私の前に片膝を突いた。
月光が窓から差し込む中で、金髪が淡く輝いている。
蒼い瞳に宿る光は優しさと獰猛さが混在していて──
「メリッサ。君には正直に言う、君に触れれなかった理由は他にもあるんだ」