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──シャワーから上がり、着替えていた彼が、ふと口を開いて、
「……近野さんのように、私を探らせていた人間は、前にもいたと言いましたが、」
そう思い出したようにも切り出すと、
「……元はと言えば、最初にそういったスパイのような真似を仕掛けてきたのは、祖父だったんです」
苦い表情で、私に事の真実を打ち明けた。
「お爺様がですか?」
彼へ尋ね返しながら、そういえば『先代から……』とお母様も言われていたことが、ふと頭をよぎった。
「ええ…」と頷いて、「祖父は厳格な人で、私の将来に必要がないと判断した付き合いは人をつかわせても壊すのが常で、いくら私がやめてほしいと訴えようが、不必要な関係は排除して当たり前だという考えを覆すことはなかったんです」話し終えた彼が、昔のことが蘇ったのか、ハァーとため息を漏らした。
「……そんな祖父が亡くなって、母は、その遺志を継ぐより他になかったのかもしれません。あの家で長くを過ごして、それが母には当然にしか思えなかったのだとしたら、」
そこまで言って言葉を切り、振り返ることもなく後にして来た自分の家を、まるで今になって探そうとするかのように窓の外をじっと眺めると、
「……あの人も、あの家の犠牲者だったのかもしれないですね……」
彼はどこか物悲しげにぽつりと呟いた……。