きっとしゃべるだけでも全身全霊を振りしぼっていたのだろう。そこまで告げると美紅は目を閉じ、がくりとその全身から力が抜けてソファから転がり落ちた。俺と母ちゃんがあわてて床に落ちる前に美紅の体を抱きとめた。そのまま俺がおぶって美紅の部屋へ連れて行き布団に寝かせた。
その時もう美紅は完全に意識がなくなっていた。まるで死んだ様に眠り込んでいた。
「雄二、あんたも今日は寝なさい。これからの事は明日にしましょ」
そう母ちゃんに言われて自分の部屋へ戻りベッドに入ったが、もちろん眠れるはずもなかった。
まず隆平を助けられなかった事。大口たたいておいてなんてザマだ。所詮俺は美紅に助けてもらわなけりゃ何もできない。それを改めて思い知らされた。
新しい疑問も湧いてきた。あの殺人鬼は深見純の幽霊じゃなかった。それは何となくほっとしたような気分だ。でも、じゃああれは一体何者だ? 美紅はあれは人間だと言っていた。けど普通の人間にあんな不思議な力が使えるはずはない。
人間だとしたら美紅のような霊能力者だろう。けど、その霊能力者がなぜ純の仇打ちをしている? 純の遺書に名前を書かれた連中がその順番に殺されてきたんだから、純の自殺と関係があるのは間違いない。でも一体どんな関係なんだ、それは?
いつになってもそんな疑問が俺の頭の中を駆け巡り、俺が眠りについたのは多分明け方近くだっただろうと思う。
翌朝、寝不足気味の頭でリビングへ行くと母ちゃんがダイニングテーブルの上に何かを並べて頭を抱えていた。ふと見るとテーブルの上と椅子の近くの床に本が山ほど散らばっている。テーブルの上の灰皿にはタバコの吸い殻がこぼれ落ちそうなほど山盛りになっていた。
「母さん。ひょっとして一晩中?」
「ええ。調べ始めたらキリがなくなってきちゃってね」
「何を調べてたわけ? 一晩中もかかって」
「霊能者のベースになっている宗教なり信仰。あの殺人鬼のね」
「それで何か分かった?」
「わけが分かんないって事が分かった。そんなとこね……」
「え! 専門家の母さんでも分からないのかい、何も?」
「まず、これ見て」
母ちゃんはそう言ってテーブルの上にあるいくつかの小さな物を順番に手に取る。最初のやつはこの前俺も見た。悟が殺された夜、あの殺人鬼が美紅に向かって投げつけた十字架らしき物。
「これは十字架だとすればキリスト教の物よね」
次に母ちゃんは一枚の四角い紙を手に取る。隆平の家の回りで住吉たちが眠らされていた。そして住吉が眠り込んでいた場所の近くの電柱に貼ってあった紙切れだ。
「この上に書かれているのはね、梵字というのよ。これであの家の周囲に結界を張ったみたいね」
「ボンジ……ケッカイ……何だよ、そりゃ?」






