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#仕事
#裏切り
#モテテク
直樹の手記をゴミ箱へ投げ捨てた翌日
私の勝利は完璧なはずだった。
けれど
あの日パーティ会場に現れた男・加賀が去り際に残した言葉が、呪いのように耳にこびりついて離れない。
『直樹は、九条を信じすぎるなと言っていたぞ。お前の実家を潰した本当の黒幕は、まだ笑っているとな』
私は胸騒ぎを抑えきれず、九条さんに内緒で
10年前の事件の資金フローをもう一度、一円単位で再集計し直した。
九条さんから渡された資料。直樹と高木が実家を食い物にした証拠。
それは確かに本物だ。
だが、その金を最終的に「洗浄」し、自らの資産へと変えた不自然な口座が一つだけ浮上した。
「……何、これ」
その口座の名義は、九条さんの関連会社。
それも、九条さんが私に「正義の味方」として近づくよりずっと前から
父の会社の株を安値で買い叩いていた記録が残っていた。
震える指で九条さんに電話をかける。
指定した埠頭の倉庫。
雨の音だけが響く中、九条さんは傘も差さずに立っていた。
「……九条さん。これ、どういうことですか?」
私はタブレットに表示した資金フローの最終結果を突きつけた。
九条さんは、いつもの冷徹な表情を崩さず、ただ静かに資料を見つめた。
「気づいたか、詩織。……やはりお前は、数字に関しては一切の妥協を許さない女だ」
「答えて。あなたは、直樹と高木の悪行を知っていながら、彼らを利用して私の実家を解体し、最後においしいところだけを奪ったの?」
「……私を助けたのも、証拠を渡したのも、高木を消して自分の手を汚さずに会社を乗っ取るためだったの?」
九条さんは、一歩私に近づいた。
「……半分は正解だ。だが、もう半分は違う。……俺は、お前の父親に恩があった。だが、あいつは正直すぎて商売に向かなかった」
「だから俺は、あいつの会社を一度壊し、お前という『本物』を育てるための土壌にしたんだ」
「……狂ってるわ」
私は絶句した。
直樹が私を「支配」という檻に閉じ込めたのだとしたら
九条さんは私を「復讐」というレールの上で踊らせる操り人形にしていたのだ。
「直樹は、お前を檻に入れたが、俺はお前に武器を与えた。結果として、お前は今、誰よりも強く、美しい。……そうだろ、詩織?」
「……一円の価値もないわ、そんな理屈」
私は九条さんから預かっていたオフィスキーと、彼から受けた支援の全額を、雨の中に投げ捨てた。
「あなたも、直樹と同じよ。人の人生を勝手に計算し、自分の利益のために書き換えた。……今日から、あなたは私の『最大の負債』。…一円の恩義も残さず、すべて清算してあげる」
九条さんは悲しげに、あるいは嬉しげに目を細めて笑った。
「……やってみろ」
家計簿の「信頼」という項目が、音を立ててゼロになった。
味方はいない。信じられるのは、自分の計算だけ。
直樹、高木、そして九条。
私の人生を弄んだ男たち全員を、地獄の同じ階層へ送るまで、私は止まらない。
【残り56日】