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第6話 分断の配達員
朝の商店街は、いつもなら揚げ物の匂いで始まる。
シャッターが上がる音。
自転車のブレーキ。
店主同士の短い挨拶。
犬の散歩をする老人。
走っていく小学生。
そんな小さな音が重なって、一日の形になる。
けれど、その日は違った。
音はある。
人もいる。
店も開いている。
それなのに、商店街はどこか薄い膜に包まれているようだった。
久世ミナトは、駅から続く細い道を歩きながら、スマホの画面を見ていた。
匿名掲示板の投稿。
地域名。
配達員の名前。
そして、短い文。
高橋が運ぶ荷物には[K]が含まれている。
証拠はない。
根拠もない。
けれど、投稿は広がっていた。
広がるには、十分だった。
隣を歩く綾瀬レイナが、丸い眼鏡を押し上げた。
「最初の投稿、午前五時四十二分」
「早いね」
「そのあと六時すぎに別の掲示板へ転載。七時前には地域チャットに流れてる」
「誰かが意図的に広げた?」
「そう見える。でも、途中からは自然拡散」
レイナは大きめの緑のジャケットの袖をまくった。
「怖がる人が、自分で広げてる」
ミナトは画面を閉じた。
「高橋さんは?」
「今も配達中」
「止められてないの?」
「本人が止めたくないって」
商店街の奥から、軽いエンジン音が近づいてきた。
緑の配達用バイク。
後ろの箱には、いくつもの荷物。
運転していた男が、二人に気づいてブレーキをかけた。
高橋誠二。
四十二歳。
日に焼けた顔。
短い茶色の髪。
配達用の緑の上着。
帽子のつばを触る手は、少し落ち着かなかった。
「久世さんですか」
「はい」
ミナトは頭を下げた。
「高橋さんですね」
「すみません、こんなところまで」
高橋は笑おうとした。
笑うと目尻にしわが寄る。
でも、その笑顔は途中で止まった。
向かいの八百屋の前にいた女性が、受け取ったばかりの荷物をじっと見ていた。
まるで、箱の中から何かがにじみ出るのを待っているように。
高橋の肩が、小さく下がった。
「昨日までは、普通だったんです」
誰に向けるでもなく、高橋は言った。
「名前を呼ばれて、荷物を渡して、ありがとうって言われて」
ミナトはうなずいた。
「ボスの配信は」
「見ました」
高橋は帽子のつばを触る。
「高橋誠二さんに[K]を持たせます。それだけでした」
「その後、掲示板の投稿が出た」
「はい」
レイナがスマホを見せる。
「これです」
高橋は画面を見た。
顔の血の気が引いていく。
「運ぶ荷物にって……」
声がかすれた。
「そんなこと、あるわけない」
「分かっています」
ミナトは静かに言った。
「でも、今はそれを一つずつ確認していく必要があります」
高橋は何度もうなずいた。
「何でも見せます。配達記録も、積み荷も、全部」
「全部を見せる前に、守るものを決めましょう」
高橋が目を上げる。
「守るもの?」
「お客さんの住所。荷物の中身。個人情報」
高橋は、はっとした顔をした。
「そうですね。見せたら、迷惑が」
「はい」
レイナが言った。
「でも、見せないと疑われる。見せすぎると誰かが傷つく。毎回これ」
ミナトは、配達箱に目を向けた。
「まず、会社に確認を取ります。配達記録と経路。あと、荷物の取り扱い手順」
「会社にはもう連絡しました。上司が来るそうです」
高橋は少しだけ声を落とした。
「でも、休めと言われるかもしれません」
「高橋さんはどうしたいですか」
高橋は、商店街を見た。
惣菜店。
八百屋。
薬局。
小さな喫茶店。
彼が毎日通ってきた道。
「配りたいです」
「怖くないですか」
「怖いです」
高橋は、また帽子のつばを触った。
「でも、僕が急に来なくなったら、それも噂になるでしょう」
ミナトは答えなかった。
その通りだった。
来ても疑われる。
来なくても疑われる。
K宣告を受けた後は、どちらの道も疑いにつながっている。
「だったら、いつも通りに配りたいです」
高橋は、少しだけ笑った。
「いつも通りって、もう無理かもしれませんけど」
その時、商店街の奥で誰かが叫んだ。
「気分が悪いって!」
一斉に視線が向く。
惣菜店の前で、中年の男性がしゃがみ込んでいた。
周囲の人々が距離を取りながら集まっている。
「さっき、高橋さんから荷物を受け取ってた人だ」
誰かが言った。
それだけで、空気が変わった。
高橋の顔がこわばる。
ミナトはすぐに走った。
男性は胸を押さえている。
岸本マリが、惣菜店から水の入った紙コップを持って出てきた。
小柄で、茶色のエプロンをつけた女性だった。
髪を後ろで結び、顔には焦りがある。
「救急に連絡しました」
「ありがとうございます」
ミナトは男性のそばにしゃがんだ。
「大丈夫ですか。息はできますか」
男性はうなずいた。
「急に、気持ち悪くなって」
周囲から声が落ちてくる。
ほら。
やっぱり。
荷物だ。
高橋さんの。
ミナトは顔を上げた。
「まだ何も分かっていません」
声を張ったわけではない。
それでも、周囲は少し静まった。
「体調不良が起きたことと、高橋さんの配達を結びつけるには確認が必要です」
「でも、受け取った後だぞ」
「確認が必要です」
ミナトは繰り返した。
レイナが周囲の様子を撮影しながら、救急への通報時刻を記録している。
岸本マリが高橋を見た。
高橋は道の端で立ち尽くしていた。
配達用の上着が、急に重く見える。
救急車が来るまでの数分間。
商店街は、誰も息をしたくないような静けさに包まれた。
男性は意識があり、会話もできた。
けれど、周囲にはもう別の話が走っていた。
高橋の荷物で体調不良。
Kが出た。
商店街で発生。
ミナトのスマホが震え続ける。
通知。
通知。
通知。
レイナが画面を見せた。
「もうニュースになってる」
そこには、短い見出しが出ていた。
K宣告の配達員、配達先で体調不良者か
ミナトは、文章を最後まで読めなかった。
か。
その一文字で、世界は走れる。
断定していない。
でも、印象は残す。
逃げ道を残しながら、火をつける。
ミナトは奥歯をかんだ。
救急車が男性を運んでいく。
高橋は、その後ろ姿を見つめていた。
「僕のせいなんですか」
ミナトはすぐに言った。
「まだ分かりません」
「でも、みんなそう思ってます」
「思っていることと、事実は違います」
「でも、思われたら終わりでしょう」
その言葉は、軽くなかった。
K宣告の本質だった。
事実ではなく、思われること。
見つかったものではなく、想像されたもの。
高橋はバイクのそばに戻った。
配達箱に手を置く。
その手は震えていた。
「この箱、もう誰も受け取りたくないですよね」
商店街の人々が黙る。
受け取りたいと言える人は、いなかった。
受け取りたくないと言える人も、いなかった。
沈黙が、高橋を包んだ。
その時、岸本マリが前に出た。
茶色のエプロンの端を指で押さえながら、高橋に近づく。
「うちの荷物、ある?」
高橋は顔を上げた。
「岸本さん」
「注文した調味料。今日届くはず」
高橋は慌てて配達箱を確認した。
「あります。でも」
「ちょうだい」
「今は」
「ちょうだい」
岸本の声は静かだった。
けれど、強かった。
高橋は荷物を取り出した。
小さな箱。
岸本はそれを受け取った。
周囲が息を飲む。
岸本は箱を抱えたまま、惣菜店の前に立った。
「私は、受け取ったよ」
誰も何も言わない。
「怖くないわけじゃない。でも、高橋さんは毎日ここへ来ていた人だから」
高橋の目が揺れた。
岸本は箱を店の台に置いた。
「確認することは確認する。でも、いきなり人を避けるのは違う」
ミナトは、その背中を見た。
近くにいる人が、踏みとどまる。
それは小さなことだ。
でも、Kに対抗できるのは、いつもそういう小さな踏みとどまりだった。
レイナが小声で言う。
「今の、記録してる」
「うん」
「出す?」
ミナトは少し迷った。
出せば、岸本も注目される。
出さなければ、踏みとどまった事実は広がらない。
透明性は、また刃になる。
「本人に聞こう」
ミナトは岸本に近づいた。
「今のことを、外に出してもいいですか」
岸本は少し眉を寄せた。
「私が高橋さんの味方をしたって?」
「はい」
「叩かれる?」
「可能性はあります」
「店に変な電話が来る?」
「可能性はあります」
岸本は鼻で小さく息を吐いた。
「なら、名前は出さないで。顔も出さないで。でも、こういう人もいたってことだけは出して」
ミナトはうなずいた。
「分かりました」
その日の午後。
ミナトとレイナは、高橋の配達会社の小さな会議室にいた。
高橋の上司、会社の広報、地域担当者が集まっている。
机の上には配達記録。
経路表。
問い合わせ一覧。
苦情の内容。
地域チャットのスクリーンショット。
高橋は端の椅子に座り、帽子を両手で握っていた。
「休んだ方がいいのでは」
広報担当が言った。
「安全のためです」
高橋は顔を上げた。
「僕の安全ですか。会社の安全ですか」
広報担当は黙った。
レイナがメモを取る手を止める。
ミナトは高橋を見た。
さっきまで震えていた人の声ではなかった。
「すみません」
高橋はすぐに言った。
「でも、僕が休めば、やっぱり何かあったんだと言われます」
上司が眉を寄せる。
「しかし、このまま続けて何かあれば」
「何もなくても、何かあったことにされます」
会議室が静まった。
高橋は、帽子のつばを指でなぞった。
「僕は、荷物を運んでいただけです」
その言葉が、部屋の中に落ちる。
「なのに、今は、僕が通った道まで怖がられている」
ミナトは、机の上の経路表を見た。
線でつながれた住宅街。
商店街。
マンション。
学校近くの道。
高橋が日々歩いてきた場所。
それが今、疑いの地図に変えられている。
「配達を続けるなら、条件を作りましょう」
ミナトは言った。
全員の視線が向く。
「荷物の受け渡しを記録する。ただし個人情報は映さない。希望者には置き配にする。対面を希望する人には、会社の確認済み文書を渡す」
レイナが続ける。
「地域向けに説明ページを作る。苦情窓口を一本化する。高橋さん個人に直接連絡が行かないようにする」
広報担当がうなずく。
「対応できます」
ミナトは高橋を見る。
「それでも、全部は止まりません」
高橋は小さく笑った。
「でしょうね」
「でも、あなた一人で受ける形にはしない」
その言葉に、高橋の手が止まった。
少しだけ、肩の力が抜ける。
夕方までに、会社は説明を出した。
配達物の管理方法。
高橋個人への嫌がらせを控えるよう求める文。
希望者への配達方法変更。
地域住民への問い合わせ窓口。
そして、匿名で紹介された一文。
今日、ある店舗の方が、通常通り荷物を受け取りました。
確認と信頼は、両立できます。
その文は、思ったより静かに広がった。
強い言葉ではなかった。
誰かを攻撃する言葉でもなかった。
ただ、立ち止まるための小さな石のように、道の上に置かれた。
けれど。
夜になる前に、別の投稿が伸び始めた。
高橋から荷物を受け取った人が体調不良。
他にも三件確認。
三件。
ミナトはすぐに調べた。
一件目は朝の男性。
二件目は、昼から胃の不調を訴えた女性。
三件目は、夕方に頭痛を訴えた学生。
三人とも高橋の配達を受けていた。
だが、同じ地域で生活している。
同じ天候。
同じ季節。
同じ商店街。
体調不良が三件あること自体は、不自然ではない。
不自然ではないはずだった。
それでも、人々は線で結んだ。
高橋。
荷物。
体調不良。
K。
思い込みが、現実のような顔をし始めていた。
レイナが画面を見て、低く言った。
「まずい」
「うん」
「これ、説明しても無理かも」
ミナトは何も言わなかった。
説明は必要だ。
でも、説明だけでは足りない。
人は、自分が怖がっている理由を手放したくない時がある。
怖さに名前がつくと、安心する。
高橋が原因だと思えば、対策ができる気がする。
荷物を拒否すれば、安全になれる気がする。
本当は、何も分かっていなくても。
夜七時。
地域の集会所に住民が集まった。
急きょ開かれた説明会だった。
畳の部屋。
古い蛍光灯。
折りたたみ椅子。
壁に貼られた防犯ポスター。
高橋は前に座り、ミナトとレイナはその隣にいた。
住民たちの顔は険しい。
誰も怒鳴ってはいない。
その代わり、全員が高橋を見ていた。
「うちにも小さい子がいるんです」
若い母親が言った。
髪を後ろでまとめ、ベージュの上着を着ている。
「高橋さんを責めたいわけじゃないです。でも、怖いんです」
高橋はうなずいた。
「すみません」
ミナトはすぐに口を開いた。
「高橋さんが謝ることではありません」
母親の目がミナトへ向く。
「怖いと言うことは悪くありません。ただ、怖さの理由を確認しないまま、人を責める形にすると、Kが広がります」
年配の男性が言った。
「でも、実際に体調不良が出てる」
「はい」
「なら警戒するのは当然だ」
「当然です」
ミナトは否定しなかった。
「警戒してください。体調が悪ければ相談してください。荷物が不安なら配達方法を変えてください」
住民たちは少し戸惑った。
「でも、高橋さん個人を原因と決めつけるのは、まだ早いです」
レイナが資料を出した。
「今日確認された体調不良三件について、現時点で共通する事実は、同じ地域で高橋さんの配達を受けていたことです。ただし、同じ商店街を利用している、同じ時間帯に外出している、同じ情報を見て不安を感じた可能性もあります」
「不安で体調が悪くなるって言うんですか」
「あります」
レイナは短く答えた。
「でも、それを言うと、気のせいだってことになるじゃないですか」
母親の声が鋭くなる。
ミナトは首を振った。
「気のせいではありません。体調不良は本物です。ただ、原因を急いで決めることが危ないんです」
静けさが落ちる。
高橋は、膝の上で手を握っていた。
「僕は」
その声は小さかった。
「僕は、明日もこの地域に来ていいんでしょうか」
誰もすぐには答えなかった。
重い沈黙。
その中で、岸本マリが手を挙げた。
茶色のエプロン姿のまま、集会所の後ろに座っていた。
「うちは来てください」
高橋が顔を上げる。
「ただし、しばらくは店の外で受け取ります。うちの従業員も不安がってるから」
高橋は深くうなずいた。
「分かりました」
別の住民が言った。
「うちは置き配にしてほしい」
「対応します」
「うちは、しばらく別の人にしてほしい」
その言葉で、高橋の顔が少し痛んだ。
でも、彼はうなずいた。
「分かりました」
ミナトは、そのやり取りを見ていた。
これは勝利ではない。
分断は残っている。
でも、相手を消すのではなく、距離を調整している。
それは、ぎりぎりの共存だった。
説明会の終わり頃。
集会所の隅で、若い男性がスマホを構えていることにレイナが気づいた。
「撮ってる」
ミナトが近づく前に、その男性は投稿した。
配達員K問題、地域説明会中。
住民分断。
久世ミナトが介入。
数分後、それはニュースサイトに拾われた。
K宣告後の地域分断に久世ミナト氏が介入
住民説明会で何を語ったのか
ミナトは、画面を見た。
自分の名前が見出しになっている。
高橋の話だったはずだ。
地域の話だったはずだ。
不安と生活の話だったはずだ。
それなのに、ニュースの中心にはミナトがいた。
信用を守る活動家。
K宣告の当事者。
また現場へ。
次の発言に注目。
レイナが、ミナトの顔を見た。
「大丈夫?」
「……うん」
「大丈夫じゃない顔してる」
ミナトはスマホを閉じた。
「僕が動くと、ニュースになる」
「今さら?」
「違う」
ミナトは集会所の出口に立ち、夜道を見た。
街灯の下で、数人の住民がまだ話している。
その横を、高橋が配達用バイクを押して歩いていた。
孤立しているわけではない。
でも、誰も近づきすぎない。
「高橋さんの問題が、僕の記事になる」
レイナは黙った。
「僕が助けに行くことで、現場が目立つ。目立つことで、Kが広がる」
「でも、行かなかったら」
「分かってる」
ミナトは小さく言った。
「分かってるけど」
胸の奥に、嫌な音が残っていた。
自分の活動が、誰かを守っているのか。
それとも、Kの熱を強めているのか。
分からなくなっていく。
高橋が近づいてきた。
「今日は、ありがとうございました」
「まだ終わっていません」
「はい」
高橋は帽子を取った。
髪が少し乱れていた。
「でも、明日、全部の家から拒否されると思ってました」
「違いましたね」
「はい」
高橋は少し笑った。
「受け取り方を変えるって言われました。怖いって言われました。でも、来るなとは言われませんでした」
その笑顔は、朝よりずっと弱い。
でも、朝より人間らしかった。
「それだけで、今日は帰れます」
ミナトはうなずいた。
「明日も記録を続けてください」
「はい」
「一人で受けないでください」
「はい」
高橋はバイクに乗った。
エンジン音が静かに響く。
商店街の方へ走っていく背中を、ミナトは見送った。
夜十時。
ミナトは自室に戻った。
グレーのパーカーの袖口は、少し湿っていた。
机の上にノートを開く。
第6話。
配達員。
匿名掲示板。
地域全体へ拡散。
体調不良。
思い込みが現実を作る。
自分の活動がニュースになる違和感。
ペンが止まる。
少し考えて、もう一行書いた。
助ける手が、目立つほど、火も集まる。
スマホが震えた。
ボスの配信通知。
本日の観察結果
ミナトは、画面を開いた。
ボスはいつもの場所に座っていた。
顔の見えない輪郭。
加工された声。
感情のない姿勢。
「高橋誠二さんは、今日も荷物を運びました」
コメント欄が流れる。
配達員かわいそう
でも怖い
久世また出た
ミナト出すぎ
「地域は分断されました」
ボスの声は淡々としていた。
「受け取る人。拒む人。距離を置く人。支える人」
ミナトは画面をにらむ。
「人は、完全に信じることも、完全に疑うこともできません」
一拍。
「だから境界線を作ります」
映像の端に、今日のニュース見出しが並ぶ。
その中央に、ミナトの名前があった。
「久世ミナトさん」
指先が冷える。
「あなたが行く場所に、Kは集まる」
コメント欄が加速する。
やっぱり
ミナトが広げてる?
現場に必ずいる
助けてるのか目立ってるのか
ボスは静かに続けた。
「あなたは火消しでしょうか」
ミナトは息を止めた。
「それとも、火を見せる人でしょうか」
配信は切れた。
部屋に時計の音だけが残る。
ミナトはスマホを置いた。
画面を閉じても、言葉は消えない。
あなたが行く場所に、Kは集まる。
ミナトはノートを見た。
自分の字が並んでいる。
守る。
支える。
孤立させない。
それらの言葉が、急に自分を責めているように見えた。
レイナからメッセージが届く。
気にしすぎないで。
でも、明日は動き方を変えた方がいい。
ミナトは返信できなかった。
窓の外で、遠くの道路を配達バイクが走っていく音がした。
高橋かもしれない。
違うかもしれない。
どちらでもよかった。
誰かが、今日も荷物を運んでいる。
誰かが、今日も荷物を疑っている。
K宣告六日目。
見えないものは、地域の道をいくつにも分けていった。
コメント
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もう、読んでて胸がぎゅってなったわ……。高橋さんの「僕は荷物を運んでいただけです」って言葉が刺さりすぎて。何もしてないのに、疑いの目で日常が壊れていくのがこんなに怖いんだってリアルに感じた。岸本さんの「受け取ったよ」の一言が、この空気の中ですごく大きくて、温かかった。でも最後のボスの配信で「あなたが行く場所にKは集まる」って言われたミナトの立場の難しさも。ほんとに、正解がない問題を前にしてるんだなって思った。次が気になりすぎる!