浜野視点
今年、やっと念願の私の台本が文化祭で使われることになった。
まあ、でも台本の数も少なかったし、
はあ、ネガティブ思考だめ、選ばれたんだから誇らないと、
「このお話なんかごっちゃだよね、」
「展開が急すぎるって言うか、」
小道具を取りに行こうとしたら、同じ演劇部の人達がそう話していた。
ごっちゃ、急、
どれも昔から言われ続けたこと。
はあ、やっぱり私には才能ないのかな、
とりあえず、はやく小道具をとって体育館に戻らないと、
そう思い、二人にバレないように小道具をとって体育館に戻る。
はあ、
やっぱりショックだなあ、
すると、体育館のドアが空いた。
「あ、白雪さん、」
って、そういえば、陰キャが白雪さんの名前呼んだら殺されるとか、聞いたような、
「すみません、遅れちゃいました、」
あれ?
意外と優しいのかな、
「大丈夫です」
というか、
綺麗だなぁ、
いつもテレビや遠目で見ていたけど、近くで見るともっと綺麗だ。
「浜野ー!ここってどんな感じ?」
白雪さんをじっと見ていると、後ろから声をかけられた。
「あ、ちょっとまっててください!」
どうしよう、なんて声掛けて行けばいいのか、
「あの、『白薔薇の鎖』とても面白かったです!」
透き通るような声で、そう言った白雪さん。
「え、」
白雪さんは、私の憧れの作家さんの作品も数多く演じてきてるはず。それ以外にも、世界が認めたような作品も何度も読んでるはず。
そんな人が、私が書いたただの”文章”を面白いと思ってくれるはずがない。
でも、
白雪さんの目は、お世辞とか、冗談を言っているような目では無い。
「あ、ありがとうございます、」
心臓がバクバクしている中、何とか声を振り絞ってそう言った。
最初は、噂を信じて怖い人だと思ったけど、そうでは無いのかもしれない。
「そろそろ練習始めます!」
学級委員さんがそう指示して、みんな各々自分の担当の場所に動く。
私は一応脚本担当だから、劇を1回通して指摘だったり、アドバイスをしなければならない。
『あなたは僕のどう言ったところを好きになったんですか?』
『ええと、私はあなたの』
物語は問題なく進んでいく。
あ、
もうすぐ、白雪さんが登場する。
『待ってください。王子。その娘はあなた様に相応しい人ではありません。』
体育館全体が、一気に静まり返った。
それと同時に、一気に鳥肌が立った。
今までは”セリフを読むだけ”という雰囲気で進んできたけど、一気に、『白薔薇の鎖』の世界線に入っていくような感じ。
周りはただの壁や床なはずなのに、一気に物語の背景になった気がした。
『この娘は、あなた様を愛していない。本気で愛していないのです。』
凄い。
声や動き、表情や雰囲気全て、私が思い描くものまんまだ。
『ほう、なぜそう思うのですか?』
というか、琴世さんの演技も凄いな。素人とは思えない。
『この娘は、あなた様をお金として見てる。でも、私は、あなた様を本気で愛しています。もし、私に興味が全く無くたって、私はあなた様を本気で愛しています。』
言葉ひとつひとつに魂がこもっている。
あぁ、そういう事か。
なぜ、この人が沢山映画やドラマに出ているのか。
私の作品にも、本気でやってくれている。
この人は、作品を本気で愛して演じているんだ。
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