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翌日
俺の手には薬の袋が握られている
Ωがヒートの時に飲む薬
叶さんと一緒に病院から帰って来た
でも1人になりたくて急いで部屋に篭った
俺はΩだった
一昨日まではβだったのに‥‥
ベッドに転がり目線の先の棚を見る
そこにはあの日貰った手袋がある
よりによって再開した日にこんな事になるなんて‥‥
俺には夢を見ることすら贅沢な事なんだきっと
Ωになった俺にはなんの価値があるんだ?
葛葉さんの相手にもなれず、叶さんだってこんな俺が運命の番だなんて‥‥
きっとがっかりしてるに違いない
コンコン‥‥
誰‥‥叶さんかな‥‥
ドアのノックの音に体を起こし、歩き出す
ゆっくりドアを開ける
「今、大丈夫かい?」
「あ、セラフ‥‥さん?」
思いもしない人物に驚きながら立ちすくむ
「午前中出掛けてたみたいだけど‥‥都合悪かったら出直すよ?」
「悪くないです!‥‥どうぞ」
「そう?じゃあお邪魔します」
中に入ると中央に置かれたソファーに向かい合うように座った
俺はコーヒーを用意してテーブルに出した
「昨日はすいませんでした。ろくに挨拶も出来なくて‥‥」
「いや、俺も練習中だったし」
「練習?‥‥もしかしてあの音‥‥セラフさんが?」
「あははっ、俺の名前呼びずらい?セラって呼んでも良いよ」
「セラ‥‥さん?」
「そう。そう呼ぶ友達もいるからね」
「じゃあお言葉に甘えて‥‥」
「どうぞどうぞ。昨日、俺の音が漏れてて気になっちゃったんでしょ?ごめんね。叶さんに怒られなかった?あの後」
あの後‥‥
それどころではなくなったけど
「大丈夫でした。謝ったら許してくれました」
「そう、良かった。気に入られてるんだね」
みんな気に入られたって言うけど‥‥
どうも実感がない
「セラさんの楽器は‥‥趣味でやられてるんですか?」
「あぁ、バイオリン?そうだな、趣味から仕事になれば良いかなって‥‥俺は音大に行かせてもらってるんだ。ここにいる理由はそれだよ」
「‥‥そうなんですか」
あの時辛そうだったのはこれが理由なのかな
「俺の親が事業に失敗してね。借金もあったし受かった大学に払うお金も無くて‥‥恥ずかしい話だけど葛葉さんに援助してもらったんだ。君も‥‥いつも来るお客さんとは違うように見えるけど訳ありなのかい?」
「あの‥‥俺は‥‥」
優しく俺の顔を覗き込んできた
「顔色悪そうだけど‥‥昼ご飯食べた?」
「食べて‥‥ないです」
「そうなの?何か作ってあげるよ」
「いえ、大丈夫ですから」
「ちょっと待っててよ。美味しいお粥作ってあげるから」
そう言って立ち上がり入口へ歩き出す
「セラさんっ!俺本当に‥‥‥あの、どうかしましたか?」
歩いていた足が止まる
俺も立ち上がり、セラさんの背中を追いかけた
「待ってな。美味しいもの持って来るから」
「え?‥‥あ、はい」
セラさんが出て行く背中を見ると縋りつきたくなる
パタンと閉まった扉の前から離れられない
そして二度と言えない言葉をつぶやく
「‥‥お兄ちゃん」
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コメント
5件
最後のお兄ちゃんは一体、、、、
最後 こや が行った お兄ちゃん がなんかいい... セラフも優しい...