神の傀儡

タクトがその日を迎えるとは思ってもいなかった。リリスの存在が次第に大きくなり、マデスの影に揺らぎが見え始めた。そしてその時は突然訪れた。

薄曇りの日、タクトは次の任務に向けて準備をしていた。だが、アプリに表示されたのは、これまでとは違う警告だった。

「緊急通知：最高神マデスに対する挑戦状が届きました。即座に出動せよ。」

「挑戦状だと…？」タクトは驚き、スマホをじっと見つめた。その瞬間、冷たい風が吹き抜け、空が急に暗くなった。

――彼女が来た。

振り返ると、黒いフードを被ったリリスが立っていた。その姿は以前よりも不気味さを増しており、彼女の背後には暗黒のオーラが漂っていた。

「来たか…リリス。」タクトは眉をひそめた。

「ええ、タクト。今日はマデスを倒す時よ。」リリスは冷たく微笑み、彼の視線をまっすぐに受け止めた。

その瞬間、空から眩い光が降り注ぎ、マデスがその場に降り立った。彼の姿はいつもの威厳を保ちながらも、少しだけ緊張が走っているように見えた。

「おう、リリス。久しぶりやなぁ。いきなり挑戦状とか、えらい急やないか？」マデスは笑みを浮かべつつも、鋭い目つきでリリスを見つめた。

「言ったでしょう。あなたを倒す、と。」リリスは一歩前に出た。彼女の目には、確かな決意が宿っていた。

「まぁまぁ、焦らんでええやろ。お前の力、確かに凄まじい。俺を倒すってのは簡単な話やないんやで。」マデスは余裕の表情を保ちながらも、内心ではリリスの力を警戒していた。

タクトはその場から動けなかった。目の前で繰り広げられようとしている戦い――それは単なる悪魔退治とはまったく違う、神々の争いだった。リリスとマデス、二人の圧倒的な力がぶつかり合う瞬間が近づいていた。

「行くわよ、マデス。」リリスが宣言すると、周囲の空気が一気に緊迫した。彼女が手をかざすと、暗黒のエネルギーが渦巻き、巨大な黒い球体が彼女の手の中に現れた。

「うぉぉ！そんなんかいな！」マデスは瞬時にそのエネルギーを察知し、黄金のオーラをまとって身構えた。

次の瞬間、二人は同時に動いた。リリスが暗黒の球体を放つと、それに対してマデスが神の力を込めた光の槍で応戦した。

「お前、派手な技ばっかり使いよるな！」マデスは笑いながらも、その槍を渾身の力で投げ放った。

空中で二つの力が激しく衝突し、爆発的な光と闇が拡がった。衝撃波が周囲を吹き飛ばし、タクトはその場に倒れ込んだ。

「くっ…なんてパワーだ…！」タクトは体勢を立て直し、二人の神々の戦いを見つめ続けた。

激しいエネルギーのぶつかり合いが何度も繰り返された。リリスは次々と攻撃を繰り出し、その力はますます増していったが、マデスも負けじと応戦し、彼女の攻撃をかわしては反撃を仕掛けた。

だが、どれだけぶつかり合っても、決着はつかない。

「ふん…やっぱりな、リリス。」マデスは息を整えながら、余裕の笑みを浮かべた。「お前、強いのは認めるけど、俺を倒すにはまだまだやな。」

リリスは息を切らしながらも、目を細めて笑った。「ふふ…まだ終わってないわ。今日は、あなたの力を見極めるために来ただけよ。」

「見極める？」マデスは首を傾げた。

「ええ。次は本気で来るわ。その時、あなたは本当の危機に直面するでしょう。」リリスはそう言い残し、再び闇に溶けるように姿を消した。

タクトはその場に立ち尽くし、茫然とした表情を浮かべた。リリスとマデス、二人の戦いが終わったとは到底思えない。むしろ、これからが本当の戦いの始まりだという予感が、タクトの胸に重くのしかかっていた。

「マデス…お前、何を隠しているんだ？」タクトはつぶやいた。

「まぁ、タクト。今はあんまり気にせんでええよ。リリスも結局、俺には手も足も出んかったやろ？」マデスは笑いながらタクトに声をかけたが、その目には不安の色がわずかに浮かんでいた。

リリスの言葉――「次は本気で来る」――それは、近い未来に何か恐ろしい事態が待ち受けていることを暗示していた。