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「消えたいんだ」
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大森side
星が綺麗に輝く夜の静寂の街中で、不意に涼ちゃんに消えたいんだと笑いながら言われた。
口調は軽いくせに目だけが本気だった。
作り笑いが下手な涼ちゃんはそういう時だけ、そういう時だけ見とれてしまうくらい綺麗な笑顔でこちらを突き放す。
俺は、そんな涼ちゃんを見てるとどうしようもなく
ー怒りが沸き起こってしまう。
怒鳴ってやりたい。
何ふざけたこと言ってんだよって。俺がどれだけ涼ちゃんに依存してどれだけ愛してるか怒鳴り散らして、今すぐその煩わしい口を塞いで監禁してりたい。
でも心優しい涼ちゃんに怒鳴ってしまったら、そんなことをしてしまったら簡単に崩れてしまうことを知っているから
だから代わりに手首を掴んで、「どこにも行くな」って思うだけ。
どこにも行かないように、釘を打つみたいに、涼ちゃんの細い体を縛りつけるみたいに。
それが「愛」じゃないことくらいわかってる。
でも「生きろ」とか「頑張れ」とか
そんな安っぽい台詞で救えるほど涼ちゃんは軽くない。
「愛してる」
そんな言葉をまるで呪文みたいに涼ちゃんが呟く俺はそれを聞き逃したふりをして、キスで塞いだ。
期待なんてしないで、俺にも。
「消えたい」って言った口で「愛してる」なんて言わないで。
俺のことを好きでいようとしないで。
どうせ涼ちゃんの「好き」は、消えたいの表裏一体なんでしょう?
消えたいって涼ちゃんが言った夜を僕は今でも何度も思い出す。
冗談でもなくて、弱さでもなくて、ただ当たり前のように。
息をして、歩いて、眠って、朝になったら俺に「おはよう」って言ってくれるだけでいいのに。一緒に朝ごはんを食べてくれるだけでいいのに。
それだけで
それだけで
それだけで俺の世界は成り立つのに。
なのに涼ちゃんは自分のことなんかどうでもいいみたいな顔して、平気で言うから僕の中の“黒いの”がまた騒ぎ出す。
本能じゃない。
憐れみでも、同情でも、恋でもない。
“涼ちゃんを壊したい衝動”と“壊されたくない祈り”が、同じ器の中でずっと燃えてる。
ベッドに落ちていく涼ちゃんは、泣いたり笑ったり何も言わなかったりする。
だから毎回どこかに“俺だけの匂い”を残す。
触れられなくなる日が来ることを、俺は知ってる。
その時までに涼ちゃんの“心”に俺の手を絡ませておきたいんだ。
溺れるフリをして、愛を押し付けて、理性を越えて、論理を喰らって――
ミセスも世界も明日も何もかも無くなったとしても
最後に残るのが俺だったらいいのに。
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