テラーノベル
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夕暮れ時、隅田川のほとり。柳の木の下で、土方の熱い視線が退子を射抜きました。
「……退子さん。俺ァ、今日一日で確信したぜ。あんたこそが、俺の求めていた理想の……いや、運命の女だってな」
マヨネーズを断ち、禁断症状で少し瞳孔の開いた土方が、震える手で退子の細い肩を抱き寄せます。
その距離、わずか数センチ。
男らしい煙草の香りと、必死な体温が山崎の肌に伝わります。
(……え、嘘。副長、本気!? 本気で俺に……いや、退子にキスしようとしてる!?)
山崎の脳内はパニックです。
「山崎ィ、隙を見せたら終わりでさァ」
という総悟の言葉がリフレインしますが、目の前の土方の顔は、これまでに見たことがないほど真剣で、そして……少しだけ切ない。
土方がゆっくりと目を閉じ、吸い込まれるように顔を近づけてきたその瞬間。
パシッ。
乾いた音と共に、退子の白く細い指先が、土方の唇を優しく、けれど断固として塞ぎました。
「…………っ」
土方は目を見開き、驚きで固まりました。
[[rb:退子 > 山崎]]は無言のまま、潤んだ瞳で首を左右に小さく振ります。
その表情は、拒絶というよりも、何か
「決して触れてはいけない神聖なもの」
を守るような、悲痛なまでの美しさを湛えていました。
(喋ったらバレる! 唇が触れた瞬間にヒゲの剃り跡とか感触でバレる! 絶対に阻止しなきゃ死ぬ!!)
という山崎の必死の生存本能からくる行動でしたが、これが土方には
「最高に奥ゆかしい拒絶」
として突き刺さりました。
「……すまねぇ。俺としたことが、焦りすぎたな」
土方は、唇に触れる退子の指の温度に陶酔しながら、そっとその手を握りしめました。
「あんたのような清らかな人を、いきなり汚そうとするなんて……。俺ァ、自分が情けねぇよ。……退子さん、あんたのその『慎み深さ』、ますます惚れ直したぜ」
(違うんです副長! 清らかでも慎み深くもないんです! 毎日あんぱん投げてスパーキングしてる地味な部下なんですってば!!)
山崎が心の中で血を吐くような叫びを上げていると、背後の茂みから
「チッ、いいところで邪魔しやがって……」
という、極めて低い、苛立ちの混じった総悟の舌打ちが聞こえてきました。
総悟はカメラを構えながら、ファインダー越しに二人の姿を見つめます。
土方の無様な失恋(?)を撮るはずが、退子のあの「無言の拒絶」の瞬間があまりに絵になりすぎていて、自分の胸の奥がチリリと焼けるような、奇妙な不快感に襲われていました。
「……おい土方さん、いつまで女の手握ってやがんですか。日が暮れまさァ」
堪り兼ねた総悟が、バズーカを肩に担いでヌッと姿を現しました。
「総悟……! てめぇ、どこから見てやがった!」
「最初から最後まで全部でさァ。……さぁ退子さん、帰りやしょう。こんなマヨネーズ臭い男と一緒にいたら、そのうち鼻が腐りやすぜ」
総悟は土方の手を振り払うようにして、退子の腕を強引に引き寄せました。
土方への嫌がらせのつもりが、その手にはどこか「誰にも渡したくない」という本気の熱がこもっていた――。
翌朝、屯所の廊下で雑巾がけをしていた山崎は、背後に
「これまでに聞いたことのないような明るい鼻歌」
を聞いて肩を震わせました。
「……おはようございます、副長。機嫌良さそうですね」
振り返ると、そこには朝日を浴びてキラキラと輝く
(ように見える)絶好調の土方十四郎が立っていました。
「おう、山崎か。……フッ、わかるか。隠しきれねェか、この『男の余裕』ってやつは」
「……ええ、隠す気ゼロですよね。マヨネーズのテカリとは違う種類の輝きが顔面から放たれてますよ」
山崎の引きつった笑顔などお構いなしに、土方はガシッと山崎の肩を抱き寄せ、耳元で熱っぽく、そして誇らしげに語り始めました。
「昨日……ついに退子さんとデートしてきたんだがよ。……お前、信じられるか? あの人は、この世の誰よりも、慎ましく、高潔な[[rb:女性 > ひと]]だったぜ」
(……俺だよ! 目の前の、この地味な男が昨日ずっと隣にいたんだよ!!)
「へ、へぇー。……何か進展でもあったんですか?」
「あぁ。……[[rb:接吻 > くちずけ]]をしようとしたんだがな」
「ぶっ!!」
山崎は思わず噴き出しましたが、土方はうっとりと遠くを見つめながら続けます。
「退子さんはな……無言のまま、そっと俺の唇を指で制したんだ。あの潤んだ瞳、震える指先……。あれは『まだ、心の準備が……』っていう、乙女の純真な拒絶だったんだよ。あぁ、なんて清らかなんだ……。ガサツに受け入れる女とは格が違うぜ」
(違うんだよ! 髭の剃り跡でバレると思って必死に止めただけだよ! 乙女の純真じゃなくて密偵の生存本能だよ!!)
「山崎、お前には分からねぇだろうがな。あの『指先越しの沈黙』……あれこそが、言葉を超えた魂の対話ってやつだ。俺ァ、あの瞬間に一生あの方を守り抜くと誓ったぜ」
「……はぁ、そうですか。よかったですね……(棒読み)」
土方はそのまま、
「退子さんの指の感触がまだ残ってる気がするぜ……」
と自分の唇を指でなぞりながら、スキップせんばかりの足取りで執務室へ消えていきました。
その様子を、物陰から冷めた目で見つめる影が一つ。
「……土方さんもおめでてーな。自分の部下の指をありがたがって拝むたァ、末期症状でさァ」
総悟が、昨日の決定的瞬間(土方の唇を塞ぐ退子の指)を拡大プリントした写真をひらひらさせながら歩み寄ってきました。
「総悟さん……もう嫌です。俺、いつまでこの『理想の女』を演じなきゃいけないんですか。副長の目が、今まで見たことないくらい純粋すぎて罪悪感がすごいんですけど……!」
「何を言ってんでィ。これからが本番でさァ」
総悟は山崎の腰を引き寄せ、耳元で悪魔のように囁きました。
「次は土方さんに『退子さんからの手紙(代筆:俺)』を渡して、さらに発狂させてやりやしょう。……あ、ちなみに、俺も昨日の退子さんの指先、ちょっとエロくて嫌いじゃなかったぜ」
「……っ!!」
副長からのガチ恋トークと、一番隊隊長からのからかい混じりの執着。
山崎退の「地味な日常」は、「退子」という化け物の誕生によって、完全に崩壊の極致へと向かっていました。
コメント
1件
もう山崎が可哀想すぎて笑うしかないんだけど!!😭💕 土方さんの「指越しの沈黙が魂の対話」って解釈、完全に自分の都合よく補完しすぎでしょ!!そこは「ヒゲの剃り跡バレ回避の生存本能」ですからね?!乙女の慎み深さと捉えちゃう副長の純粋さが逆に尊い…! しかも総悟の「ちょっとエロくて嫌いじゃなかった」発言で更にカオス加速してて、この三人の関係性が壊滅的に面白すぎるよ…!!続き早く読みたい!!🌸
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