TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

■第8話「さわれない友達」

触れあうことが怖くなったのは、いつからだったろう。


あのとき、目を逸らしたのは自分だとわかっていた。

でも、それでもあの子は、笑ってくれていたのに。


ミナトは俯いたまま、気がつけば見知らぬ床に立っていた。


床……と呼べるかどうかも曖昧だ。硬くて、柔らかくて、ガラスのようで布のようなものに包まれている。

空間全体が、誰かの夢の断片のようなやわらかな色をしていた。

遠くではページがめくられる音と、話し声にならない音が交差している。

本棚は影の中に沈み、見えるのに届かない距離にある。


ここが現実でないことは、直感でわかった。

けれど、目を覚ましたくなるほどには、冷たくなかった。


ミナトは高校生。身長は少し高めで、痩せ型の輪郭。

制服の上から濃いグレーのカーディガンを羽織り、イヤホンを片耳だけつけている。

黒髪はぼさついて額にかかっており、視線は伏せ気味。

人と話すことに慣れていない空気が、立ち姿から滲んでいた。


「声も、視線も、いずれ消えます。でも、触れようとすることだけは、残ります」


現れたのは、ブックレイだった。

今の彼は、紙の人形のようにやや小さく、光を吸い込むような静けさを纏っている。顔の代わりに、なにか感情のない文章が浮かんでいた。


「あなたに足りないのは、“触れようとする意志”です」


ブックレイが差し出したのは、一冊の物語。


「この物語では、“誰とも言葉を交わせない”世界が広がっています。声も届かず、文字も読まれず、ただ“そばにいること”だけが通じる唯一の関係。

──あなたは、その中で、ひとりの“触れられない友達”と出会うでしょう」


ミナトはためらいながら本を開く。

その瞬間、空気の膜がひとつ破れた気がした。

誰かの手のぬくもりが、記憶の奥底でほんのり揺れた。


「もう一度だけ、ちゃんと……」


そんな言葉を、彼は心の中でつぶやいた。


シャフト・オブ・ライト

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

39

loading
チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚