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side 緑 .


俺と照は病室が一緒で、カーテンを開ければいつでも顔が見れる。そして、俺達が共通して好きなのが、歌を歌う事。俺は普通に好き、くらいなんだけど照は凄い好きみたいで、俺に色んな曲を教えてくれた。いつもリスニングの練習でしかイヤホンなんて使わなかったから、初めて音楽を聴くためにイヤホンを使った。



岩「いい曲っしょ、これ…」



イヤホンを付けたまま、照の方を見て頷く。


阿「いい曲だね。男性が歌ってるのに随分女性らしい歌詞だけど、」


岩「作詞者さんはバイ・セクシャルらしい。」


阿「嗚呼、だからか。」



同性愛、俺はどうも思わない。けど照はすごく熱心に考えてる。まるで自分の事かのように。



岩「…阿部は好きな曲とかないの?」

「…聴いてみたい曲とか。」


阿「聴いてみたい曲…?」


岩「うん、好きなの選んでいいよ。」


阿「…うん、」



俺自体、携帯は持っているけど全然使ってない。ほとんど親が持っているから。勉強に影響してしまうから親が預かる、と言ってそれっきりだ。照はイヤホンを外さずに俺が選ぶのを待っている。



阿「…じゃあ、これで…。」



曲も聴いたことないし、誰が歌ってるかなんて知らないけど、なんだか聴いてみたくなった。まず流れるピアノのメロディー。



岩「…クラシック系、?」


阿「…かな、」



照は気になったのか、画面をちらちら見ている。



岩「んー、わかんないね。」


阿「…うん。」



あの頃は歌なんて聴かなかった。まぁ、聴けなかったの方が正しいんだろうけど。聴く機会が無かったのだ。テレビも見なければ携帯も触らない。やる事と言ったら勉強だけだった。



阿「…..」


岩「…..。」



二人で黙って聴き込む。よく聴くと繊細だけれど力強い歌声が聞こえてくる。力強いのに柔らかくて、まるで包まれているような感覚だ。



阿「…..」



照を見ると、少し頬を緩ませながらこの曲を聴いている。照は音楽に詳しいから、どういう曲なのかも分かっているんだろう、羨ましいな。



岩「…いい曲だね、ほんと。」


阿「…ね、いい曲。」



曲が終わり、俺はイヤホンを外し照に返す。そして読書を始める。



岩「…こんな感じだったかな…、」

「♬︎♪𓂃♬︎♪𓂃 𓈒𓏸♬︎♪」



照は覚えが早いから、一度聴いた曲は忘れない。それに、1度聴けば殆ど覚えられるから、少し歌ってくれるのだ。



阿「うん、そんな感じ…」



この時が俺の1番の幸せ。さっき聴いた曲を照が歌ってくれる。すぐアレンジを聴けるのは喜ばしい事だ。それに、本人が歌っている歌声より、俺は照の歌声の方が好きだ。切なくて寂しげで、でもどこか暖かくて。そんな歌声が大好きだ。



岩「中庭行こ?」


阿「ん。」



本にしおりを挟んで、閉じる。ちょうど俺も歌いたくなっていたんだ。照と出会ってから歌いたいと思う事が増えた気がする。照に着いて行き病院の中庭まで行く。



岩「…晴れだね。」



今日も中庭は晴れ。ただ照が歌い出すと何故か雨がぽつぽつと降り始める。僕達はただ中庭を見ているだけなので濡れることは無いが、雨に溺れる中庭は儚く綺麗だ、と思う。



岩「… ( 息吸 」


俺達は、合図無しに歌い出す。まぁ唯一ある合図的な物は照の息を吸う音だと思う。これが入ると、歌う準備ができる。



「「•*¨*•.¸¸♪.•*¨*•.¸¸♬」」



二人でハーモニーを奏でるのはやはり楽しい。きっと照じゃなければ、こんなこと思う事も無かったんだろう。照の歌声に合わせて俺も歌う。この時だけは胸の痛みを忘れられる気がするんだ。

照の歌ってる時の横顔は、優しさと楽しさに満ち溢れている。そんな照の隣で歌えて俺は幸せだ。



「あの、!」



よく通る低い声、すぐにその存在に気付き、俺は気付けば照の後ろに隠れていた。



岩「…はい、?」



急に話し掛けられ、照も戸惑っている。そう、俺達はあまり人が得意ではないのだ。だからこんな対応にもなるのは仕方ない、と思ってほしい。



宮「君達の名前は…?」



急に名前を聞かれても、すんなり答えられるはずが無い。だけどその人の目を見ていると吸い込まれそうになって、気付けば口を開いていた。



阿「…阿部、亮平…です、」



照の後ろから少しだけ顔を出して、そう答える。



岩「…岩本照です、」



照も俺と同じように、答える。



宮「二人とも、すごくいい歌声をしてるね、」


岩「あの、俺達名前言ったんで、」

「そっちも、言ってもらって、いいですか、?」


宮「ああ、ごめん。」

「俺は宮舘涼太です。」



その人はそう言うと、少し微笑んだ。その微笑みに今まで感じたことが無い感情になった。



岩「宮舘…さん?」

「急に、なんか様ですか、?」


宮「あの、2人の歌声に惹かれて…」

「俺、今から診察だから、もう少しだけ待っててくれるかな…、?」


岩「…はぁ、?」


最初は意味が分からなくて、俺も照も首を傾げた。俺達の歌声に惹かれたのは分かった、けどなんで待っていなきゃいけないんだろうか?



宮「あ、俺ね。」

「まだ売れてないけど、作曲家してるんだ。」


岩「…作曲家、?」


照の目の色が変わる。照の夢は作曲家に歌を作ってもらってそれで売れる事だからだろう。作曲家に過剰に反応した。



宮「うん、そう。」

「良ければ、2人をプロデュースさせてくれないかな、?」


アイドルじゃないんだから、プロデュースも無いでしょ、なんて思っていたけれど、照の希望に満ち溢れた目を見てしまえばそんな事も言えない。

俺達は二つ返事で了承した。



宮「良かった、じゃあここで待っててね?」

「診察受けてくるから…、」



岩「…阿部、俺の夢…」


阿「叶いそうだね、良かったじゃんっ、!」


岩「ありがと、!」


阿「照の夢、叶いそうだね…?」


岩「うん、阿部と一緒に叶えられる、」


阿「…俺じゃなくてもいいんじゃない?」



不安になったんだ。照ほどの熱量は無いし、歌も歌い始めたばかり。そんな俺なんかより、照と同じくらいの熱量で歌が上手い人の方が、照の夢を叶えてくれるんじゃないか、って。



岩「…何言ってんの、?」


阿「…だって、俺なんて…」


岩「お前がいいんだよ。」



その言葉に、不覚も泣いてしまった。別に泣きたかったわけじゃなかったのに。なんなら泣きたくなかった。



岩「俺、阿部以外と歌う気ないから。」


阿「…俺も、」

「照以外と歌いたくないっ、!」


今だけ、俺が照の相棒。

そう名乗っていい気がしたんだ。




… 。



画像


𝐍 𝐞 𝐱 𝐭 ▸ ▸ ▸ ♡×990



… 。

震える歌声を音に乗せて_

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