テラーノベル
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長女の奈央(なお)は、自分の部屋のベッドの上で、膝を抱えてスマートフォンを見つめていた。
彼女は身なりに全く無頓着だった。 髪はボサボサで、服のシミにも気づかない。
感覚過敏ゆえに特定の古い衣服しか着られない彼女を、美紗子は「恥ずかしい娘」として扱い、SNSに投稿する際には必ず、その顔に厚い「目隠し(モザイク)」を施していた。
奈央にとって、現実の家は息が詰まる場所だった。 母親は自分を隠そうとするし、長男の修一からは、最近妙に生々しく、粘ついた視線を向けられているのを感じていたからだ。
修一は、現実逃避の果てに、最も身近なタブーである「妹」という存在に、歪んだ異常性癖の矛先を向け始めていた。 修一の部屋のパソコンの履歴は、奈央の隠し撮り画像や、ネット上の淫らな動画で埋め尽くされている。
◇
その視線から逃げるように、奈央は自室で「踊ってみた」の動画を撮影し、ネットに投稿し始めた。
ステップは独特で、どこか不器用だったが、その「無防備さ」と「無垢な身体」は、ネットの裏側に潜むおじさんたち(捕食者)の目に留まる。
「かわいいね」「もっと見せて」
投げかけられる言葉の意味を、奈央は正確には理解していなかった。 だが、現実の家族が誰も自分を真っ直ぐ見てくれない中で、ネットの画面だけが自分を肯定してくれる気がした。
◇
ある日、奈央が何気なくスマートフォンのタイムラインをスクロールしていると、見覚えのある「背景」が目に飛び込んできた。
歪に切り抜かれた、古い手作りのパズルの破片。
そして、見慣れたリビングのカーテンの柄。
アカウント名は『カサンドラの母』。
そこには、自分たちの顔にモザイクをかけ、夫や子供たちの悪口を書き連ねて、何万もの「いいね」を貪っている母親の真の姿があった。
奈央の感情の起伏の乏しい瞳が、わずかに揺れた。
彼女は身元を隠した別のアカウントを作り、その『カサンドラの母』のDMへ、一通のメッセージを送った。
『子供たちは可愛いですか? 悩んでいるなら、お話を聞きますよ』
数分後、返ってきたのは、生々しい呪詛の文字列だった。
『可愛いわけがないでしょう。死ねばいい。子供なんか産まなきゃよかった。あいつらのせいで私の人生はめちゃくちゃ。私の人生を返して欲しい』
「……そうなんだ」
奈央は呟いた。涙は出なかった。
ただ、彼女の中で、母親という存在の輪郭が完全に消滅した。
その後、奈央の動画は「卑猥な動画」として悪意ある大人たちに拡散され、彼女は導かれるように裏風俗の世界へと足を踏み関係していく。
自分の身体がどう扱われようと、もうどうでもよかった。 「産まなきゃよかったゴミ」なのだから、何に使われても同じだと、彼女の純粋なロジックは結論づけていた。
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