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「グランツ・グロリアスさん」
自分の名前をフルネームで呼ばれたことで、それまで空気のように黙って存在感を消していたグランツがゆっくりとその顔を上げ、翡翠の瞳をブライトに向けた。
私も、ブライトがグランツに興味を……名前を呼ぶなんて予想外で何を話すんだろうと距離が近いにもかかわらず聞き耳を立てていた。ならもう堂々と聞けば良いのに、聞いちゃいけないような気がしないでもなかった。
グランツも何故呼ばれたのか分からないようで少し戸惑いを隠しきれずに、ブライトを見ていた。それでも、彼にとってブライトは格上の人になるわけだし無礼な態度をとってはいけないと思ったのか、頭をぺこりと下げていた。
「ご無沙汰しております。ブリリアント卿」
グランツはそう言うとさらに頭を深く下げた。
何となくだけど、グランツからはあまり話したくないというオーラが感じ取れないでもない。まあ、そこまで人と話すのを得意としていないような男だし、無口で無表情って言うのがグランツのイメージだったから、私と話す以外はあまり人と話すところを見たことが無い。現に、今の主であるトワイライトにも無口を決め込んでいるみたいだし、最低限のことしか話さない男なのだ、彼は。
「はい、久しぶりです。と言っても、僕は今の貴方と話すのはこれが初めてなのかも知れませんが」
「…………」
と、ブライトは言うとか細く微笑んでいた。
グランツはゆっくりと頭を上げて、空虚な瞳でブライトを見ていた。早く用件を言えというようにも捉えられて、そんな態度をあからさまにとって良いのかと私は思ってしまった。でも、周りはそんな彼の態度に気づいていないみたいだし、私にだけ彼の少しの変化、感情の変化が分かるのだろうかと、彼と少しの時間一緒にいただけで彼のことが何となく分かるようになったのかと私は思った。まあ、元から人間観察は得意な方だった。それは、自分の敵を作らないために身につけたスキルだったが。
けれど、ブライトが話すのは初めてと言ったように、話したことがない相手に対して何のようなのだろうかとやはりそこは疑問だった。グランツは、平民上がりの騎士だし、貴族の間ではあまり良い評価を受けれていない。確かに、他の騎士よりも何倍も腕が良いと言えば、良いのだが、それをわざわざ聞きつけて、聖女を守る為に作られた騎士団から引き抜こうと言うことなのだろうか。でも、それなら直接プハロス団長の方に行くだろうし。と、私はブライトがどういった考えがあってグランツに話しかけたのか分からなかった。だから、動向を見守ることしか出来なかった。
「貴方の噂はかねがね聞いています。唯一平民から成り上がった騎士だと。剣の腕も騎士団の中でトップクラスと聞きます」
「それは、恐縮です」
と、ブライトの言葉にグランツは相変わらず無愛想に答えた。
私は、そんな二人の会話を聞きながら、攻略キャラ同士の絡みではいつも何かしら事件が起きるので、あまり関わって欲しくないところもあった。仲がよければいいのだけど、グランツはアルベドに対してただならぬ怒りと殺意を抱いているし、ブライトとアルベドもあまり仲がいいという印象ではなかった。だから、そんな攻略キャラ達に挟まれたくないと思ったのだ。勝手な考えかも知れないけれど。
ブライトは、冷たく返したグランツに相変わらずですね。とでもいうような顔を向けて、本題に入ると言わんばかりに息を吸った。
「グランツさん、この後予定ありますか?」
「予定……ですか? 何故」
「少しお聞きしたいことがあるんです」
ブライトはそう言って、グランツをじっと見つめていた。その目は真剣そのもので、何を考えているのか私にはさっぱり理解できなかった。
グランツは、ブライトがこれから何をしようとしているのか分からないのか、眉間にシワを寄せて首を傾げていた。
私もグランツだったら同じ反応をしただろう。ブライトが何を話したいのか、雰囲気的に二人きりで話したいらしく私達のつけいる隙はなかった。この場には女子の割合が高いし、二人の方が話しやすいってのもあるかも知れないけれど、そういう風ではなかった。
「聞きたいこととは。ここでは話せないようなことでしょうか」
「はい。グランツさんもその方が話しやすいでしょうし、色々聞きたいことがあるので」
「……」
グランツは、ブライトの返答を聞くと顎に手を当て、考える素振りを見せた。
ブライトの質問の内容が気になるところではあるけど、私達に聞く権利はない。だって、二人きりでって言った相手に対して、私がその内容を突っ込むのは間違っているだろうから。
「俺は……トワイライト様を守る使命があります。なので、トワイライト様を置いてブリリアント卿と二人きりで話すことは出来ません」
と、グランツは言うとちらりとトワイライトを見た。
トワイライトは驚いて何度も瞬きをしていた。それもそうだ。彼は、都合の良いときだけトワイライトの護衛騎士の顔をする。大方、ブライトから逃げる口実であろうが、それは私だけじゃなくて、ブライトも気づいていたのだろう。彼は、どうにかしてグランツと話したいようで、深く考えてたいた。そんなに話すことがあるなら、グランツも折れてあげれば良いのにと思ったが、彼は護衛なので離れられないの一点張りだった。ああ、相変わらず面倒くさい性格をしていると。
「それなら、僕の家の者がその間だけトワイライト様も、エトワール様も守らせていただきます。それなら、よろしいですか?」
「あ、グランツさん、私は大丈夫なので」
「トワイライト様」
トワイライトは機転を利かして、そう声を上げた。主がそう言うのであれば、グランツも折れなければならなかった。
彼は、せっかく逃げる道を見つけたのに、とでも言うような残念なかおをして、分かりました。と渋々了承した。
「失礼承知で聞くのですが、その話の内容だけ今少し聞かせて貰って良いですか? 大方、予想はついていますが」
と、グランツは要約話す気になったのか何故か強気の姿勢でブライトに言葉を投げた。彼は、礼儀正しいのか無礼なのか分からないぐらい、強くまるで対等かブライトを下に見ているような口調で言った。
ブライトは、グランツの態度に特に何も言わず、ふっと微笑んだ。ブライトは私達がいることを気にしているのだろうか。それとも、彼の人の良さで、寛大な心で許しているのだろうか。リースとかアルベドだったら切れいているだろうなと思いつつ、私はブライトの言葉を待った。
「予想がついていると言うことは、僕が話したい内容を理解して下さっていると言うことですよね」
「はい、そうです。聞かれることと言えば、一つしか思い当たらないので」
「そうですか」
ブライトは、そう言ってから一呼吸置いて、グランツを見据えた。そして、はっきりとした声でグランツに問いかけた。
それは、グランツが予想していた通りのものだったようで、彼はブライトの言葉を受けても何も動じなかった。
「グランツさんのユニーク魔法について、お聞きしたいのです。魔法の一研究者として、ユニーク魔法は珍しいものなので」
ブライトはそう言うと、にこやかに笑った。
グランツは予想していた内容であっていたらしく、コクリと頷いた。
確かにブライトは魔法の研究もしているし、グランツの珍しい魔法に興味があっても可笑しくないと思った。でも、グランツはユニーク魔法のことをあまり公に話していないし、どちらかというとかくしている感じだった。だから、その情報がどこから流れ着いたものなのか、ブライトの耳に入ったのか気になってしまった。まあ、風の噂と言うことだろうけれど。
ブライトは、グランツを別室に案内するために私達に少し席を空けると言って部屋の扉を開けた。私達は、主に私は別に構わなかったしまだ疲れているためこのまま帰るのも辛かったため、もう少し休ませてもらおうと思っていたところだから、別に好きなように話してきてくれればと伝えた。他の皆も同じ気持ちだったみたいで、静かに出て行くグランツとブライトを見送った。
扉がぱたりと閉まれば、私達は顔を合わせ緊張が解けたように笑った。
「何か、変に緊張しちゃった。ユニーク魔法の話って言ってたけど、ここで話せないような内容だったのかな?」
私は、皆の意見が聞きたくてそう投げた。
ブライトは皆の前で話せないと言った。でも、内容はユニーク魔法についてだった。何故、ブライトがグランツのユニーク魔法について知っていたのかもそうだけれど、グランツも乗り気ではなかったし、矢っ張りユニーク魔法という特別な魔法だから研究されるのを嫌がったのかも知れない。私が知ったことではないけれど。
そんな話をすれば、アルバがユニーク魔法は本当に珍しい魔法で貴族でも使える人は稀で、皇族あたりが使えるような魔法だと言った。それなら、聖女にもユニーク魔法があるのかと聞けば、アルバは聖女自体が特殊なもので、光魔法の上位互換、聖魔法を使える時点でユニーク魔法が使えると言うことにはならないのだそうだ。前例がないとも言った。
そう、アルバの話を聞いていて益々グランツとブライトが何を話しているのか気になってしまったのだ。
平民である彼が持つユニーク魔法。魔法を斬ることのできる魔法。
(本当に、それだけなのかな……話って)
ここに来て、またもやもやっとした気持ちが私の中で生れ、会話の内容が気になって仕方がなかった。後で聞けるものなら聞いてみようと思い、私はもう少し、アルバやトワイライト、リュシオルと話していようと思った。