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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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レイは額の髪を払い、キスを落とす。



優しい優しい唇。



それを受けて、切なくて胸が詰まった。




レイの気持ちは苦しいほど嬉しい。



私の気持ちに応えてくれて。私を選んでくれて。



だけど……かわりにお父さんを諦めるなんて、寂しすぎるよ。





「大丈夫、いつかお父さんはわかってくれるよ。

 だって……家族だもん。


 時間がかかっても、きっとレイの幸せを願ってくれるから」



レイは私の額に唇をつけたまま、かすかに笑った。



「残念だけど、そんな日はこないよ。神に誓える」



「もう、そんな悲しいこと言わないで。


 今は無理かもしれないけど、レイが幸せに生きていれば、きっとくるよ。


レイだってお母さんに会って考えが変わったでしょ? それと一緒じゃないかな」



「ね?」と笑えば、レイは心底呆れた目をした。



だけど彼の瞳の奥は笑っていて、それを隠すようにため息をつく。








「本当、澪は相変わらずだな。


 ありえない幻想でも、否定しちゃいけない気になるから、参るよ」



「もう、幻想なんかじゃないよ。


 レイが信じないでどうするの」



むくれたふりをすれば、彼は返事のかわりに、温かいため息をこぼした。





それからレイは私から腕時計を外す。



「レイ?」



「もうかわりはいらないから。


 だけど……」



そこで彼は思い出したように苦笑する。



「これを俺のかわりだと思ってだなんて、無茶だったな」



「でもレイだって、私のものが欲しいって言ってくれたじゃない。


 もっと早く言ってくれたらよかったのに」



あれからレイに欲しいと言われそうなものを考えたけど、結局わからないままだった。



「そう、その話だけど」



「ん?」



「やっぱり澪の持ち物、なにもいらなかったよ」



私は一瞬黙った。



その後「そっか」と呟く。



欲しいと思ってくれたことが嬉しかったけど、レイには必要なかったんだと思うと悲しくなる。





うつむいた私は、レイがポケットからなにかを取り出すのを横目で眺めた。



「先に言っとくけど、これは母親のじゃないから」



「え……?」



「大学を卒業して、バイトして買ったんだ」



彼の手には銀色の指輪があった。



よく見れば、暗くても真新しい光沢がある。



驚いて顔をあげると、穏やかな目とぶつかった。



「あれから思ったんだ。


 俺が欲しいのは澪自身だから、澪のどんなものをもらったとしても、かわりにはできないって」



レイは私の左手を取り、無造作に指輪を置いた。



「あの時、なんでもくれるって言ったよね。


 それなら俺に、「広瀬澪」をちょうだい」



レイは指輪ごと私の手を握りしめた。



目の前には大好きなレイ。



そのレイが微笑んで、私の答えを待っている。




胸が詰まって返事なんて思い浮かばない。



だって……ずるいよ、そんなの。



待っているふりして、私が頷くって初めからわかっているんだから。





私は指輪を握りしめたまま、レイにしがみついた。



「ちょっと澪。 返事は?」



レイは驚いたらしく、笑いながらぽんぽんと私の背をたたく。



「……そんなのわかってるくせに、レイは意地悪だよ」



「わかってても聞かせてよ。澪の口から聞きたい」



「それが意地悪なの……!


 嬉しいよ。嬉しくて死んじゃいそうだよ。

 ……絶対離さないでよ、お願いだから」



わめくしかできない私の背を、レイは何度も優しく撫でる。



それからレイは、私にしか聞こえない声で「ありがとう」と囁いた。



「澪は覚えてる?


 初めて会った日に言ったこと」



「え……?」



「自分は野田家の家族じゃない、家族はいないって言ったんだよ。でも」



レイは私の肩をそっと押し、握った私の手を開いた。



「家族はつくれるんだよ。


 いつか俺と、家族になって」





指輪を抜き取り、左手の薬指に滑らせる。



気付けば、私はレイの胸の中で声をあげて泣いていた。



レイは私を抱いたまま、困ったように言う。



「澪、顔をあげて。


 まだ続きがあるのに、こんな泣かれたら言えないよ」



「だ……だって……」



レイを困らせたくなくても、涙でぐしゃぐしゃの私は顔をあげられない。



家族。



ずっと焦がれて、ずっと手に入らないと思っていたものに、レイが一緒になろうと言ってくれている。



もう心のコントロールがめちゃめちゃだ。



悲しくてもこんなに涙は出ないのに、嬉しくて苦しくて、涙が止まらない。



「澪って」



レイは苦笑して私の頬の涙を拭った。



ようやく顔を上げた時、ぼやけた視界になにかが映る。








それは鍵だった。



レイは私のポケットに入れて言う。



「さっき少し先のアパートに越してきたんだ。


 今度明るいうちにおいで。

 けど……まだけい子には内緒だよ」



悪戯っぽい目で、レイは人差し指を立てた。



私はつられて笑ってしまった。



小さく頷くと、レイは私に触れるだけのキスをする。





「好きだよ。澪」



唇の隙間から声がした。



さっきとは違う、切羽詰まったような響きに、泣かずにいようとしたのに涙が出そうになった。





「私も……レイのことが好きだよ。大好きだよ」



レイを好きになってから、時が経つのが怖かった。



未来なんていらないから、今が続けばいいと思っていた。



だけどもう、そんなことは思わない。





「大好きだよ、レイ。


 いつか私と家族になってね」




レイと一緒にいたい。



これから先もずっとずっと。



私がおばあちゃんになって、レイがおじいちゃんになっても、ずっと。




夜風が渡る。



冷たい、けど温かい風が。




私が彼の目を見て微笑んだのと、レイが笑ったのは同時だった。









シェアビー~好きになんてならない~


 -完結-





























シェア・ビー ~好きになんてならない~

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