「ぐぅっ!?こっ、これはっ!なんっ……!」
胸を光の刃で貫かれた長老は驚愕し、言葉を続けること無く光の粒子となって消滅した。シャーリィの魔法剣は魔物とシャーリィが敵と認識した相手にのみ絶大な威力を発揮する。
「長老ーっっ!!」
「貴様らぁあっ!!」
周りの戦士達が一斉に武器を構える。だがそれよりも早くシャーリィとルイスは動き始めた。
「オラァアッ!」
ルイスは近くに居た戦士が唖然としている間に腰に差していた短剣を奪い、首を切り裂いた。
「ぐぶっ!?」
「やあっ!」
「がっ!?」
シャーリィは魔法剣を振るい、受け止めようとした戦士の剣は真っ二つとなり肉体を両断。光の粒子となって消滅させる。
怒号と悲鳴が響き渡る中、シャーリィとルイスは縦横無尽に暴れまわる。シャーリィの魔法剣は理不尽なほどの威力を発揮して、防ぐことも出来ずに次々と原住民を葬り、ルイスは奪った武器を片手にシャーリィの背中を護りながら戦っていた。
「ルイ!」
「おうっ!」
シャーリィの合図でルイスが身を屈める。
「極大!」
その瞬間魔力を増加させて光の刃を巨大化させたシャーリィは、その場で魔法剣を振りながら回転。自分達を囲んでいた戦士達を纏めて消し去った。
「なんだこいつらは!?」
「弓だ!弓で仕留めろ!」
「今です!」
「おうっ!」
動揺した瞬間を突いて、ルイスを先頭に二人は駆け出す。その場に留まらずに、逃走を選んだのだ。
「シャーリィ!こいつを!素っ裸のままじゃ目のやり場に困る!」
ルイスは近くにあった原住民のテントを壊すと厚手の布を剥ぎ取り腰に巻いて、別の布二枚をシャーリィに手渡す。
「流石に見栄が悪いので、そうさせて貰います!」
シャーリィは素早く一枚を腰に巻き、もう一枚で胸を縛る。
「逃がすなぁ!」
「追え!追え!」
動揺から立ち直った原住民達が一斉に追跡を開始した。それを遠目に確認した二人は、森を駆け抜ける。
「地の利は彼方にあります!ですがこの騒ぎです!この小さな島では、ベル達にも聞こえている筈!」
「あんなにバカみたいに叫んでるんだからな!あれで聞こえてないなら耳に異常があるぜ!」
「その通りです!そして私が記憶している限り『暁』に難聴の方は居ません!」
「そりゃ良い知らせだ!俺たちが捕まるまでに保護してくれることを祈ろうぜ!」
「そのつもりです!炎よ!」
今度は炎の刃を出現させて、大木を焼き斬って妨害に使う。
「逃がすなぁ!逃がすなぁぁあっ!!」
「ほっほーーぅっ!!!」
雄叫びを挙げながら追撃する原住民。それに反応するように、森のあちこちから援軍が現れた。
「うぉっ!?他にも居やがるぞ!」
突如正面から飛来した矢を間一髪避けたルイスが叫ぶ。
「あの集落に全員が居たわけではないと言うことです!っ!ルイ!恐ろしく負担をかけますが良いですか!?」
「なんだ!?」
「おぶってください!私の背丈では、歩幅が足りない!現に貴方が私に合わせてる!これでは追い付かれます!」
「任せろ!」
素早くルイはシャーリィを背負い森を全力で走る。土地勘がなく視界の悪い森の中を駆け抜けるのは困難だったが、ここで背負われたシャーリィが活躍する。
「薙ぎ払え!」
魔法剣から光の刃を飛ばし、進路上にある樹木や根等を的確に消失させて進路を確保する。
だがやはり原住民達には地の利があった。彼等は木々の上を飛び回り、凄まじい速度で追い付いてきたのだ。
「速い!追い付かれるぞ!」
「前だけ見てください!私が!」
「追い付いたぞぉおっ!」
原住民五人が追い付き、木の上から二人目掛けて飛び掛かる。
それをルイスの背から見ていたシャーリィは、魔法剣を大きく振りかぶる。
「ウィップ!やぁああっ!」
光の刃がまるで鞭のようにしなり、が飛び掛かった五人を捉える。
「ぎゃっ!?」
光の鞭を受けた原住民の戦士達は僅かな悲鳴と共に光の粒子となって消滅する。
「そんな使い方もあるのか!?」
「魔法は応用と創造力だそうです!」
「なんでもアリだな!?っ!?やべっ!」
「こっちにも居るぞぉ!」
正面から飛び掛かってきた戦士。だが、その背中に小さな影が飛び乗る。
「なにっ!?ぐげっ!?」
それは素早く戦士の喉を切り裂いて、シャーリィ達の隣に降り立ち並走する。
「アスカ!?」
「……ん、迎えに来た」
シャーリィ同様無表情のまま黒いワンピースを揺らしながら走るアスカ。
「お前、いつの間に!?それにそのナイフは!」
「……ずっと見てた。こっち」
手短に答えたアスカは二人の前に出て誘導を始める。彼女が持っているナイフは、シャーリィがルイスに預けたものであった。
「ずっと見てた!?」
「話は後です!ルイ!追い掛けてください!」
「おっ、おうっ!」
三人は時折現れる原住民達を凌ぎながら森の中を疾走する。
アスカは幼いながらも獣人らしい身軽な動きで森をどんどん進む。
「……邪魔」
「げっ!?」
襲い掛かる原住民にはナイフで迷い無く急所を一撃、そのまま速度を落とすこと無く走り続ける。
それから数分後、三人の視界が一気に開けて、砂浜に出る。
沖合いにはアークロイヤル号が停泊しており、砂浜には三十人の海賊達が小銃を構えて横隊で待ち構えていた。
「いっ!?」
「伏せて!」
シャーリィの指示で三人が飛び込むように伏せると。
「撃てーっっ!!」
待ち構えていたベルモンドが号令を発して、一斉射撃を行う。そして撃ち出された弾丸はシャーリィ達を追跡して森から飛び出してきた原住民達を撃ち抜いていく。
「ぎゃあっ!?」
「撃てーっっ!!」
ズダダダダァアンッ!!っと絶え間無く続く一斉射撃は次々と原住民達を撃ち抜き、屍の山を築いていく。敵わないと見た彼等は森へ逃れた。
「ベルっ!」
「ベルさん!」
「お嬢!ルイ!良かった、無事だったんだな」
シャーリィ達はベルモンド達と合流を果たし、逃避行を終えた。
「どうする?お嬢。このまま追撃するか?」
「いえ、森の中では不利です。間違いなく犠牲者を出すことになります!名残惜しくはありますが、これ以上私のわがままを通すつもりはありませんっ!直ちに退避を!」
「分かった!船に戻るぞ!」
用意されたボート数艘に分譲し、警戒しながら沖合いにあるアークロイヤル号へと帰還を果たす。
「シャーリィちゃん!ルイス!ああっ!心配したんだよ!?怪我はないかい!?」
「むぎゅっ!」
船ではエレノアからのダイナミックな抱擁で迎えられた。豊かな胸に潰されたシャーリィを見て、ルイスは苦笑いしながら言葉を掛ける。
「エレノア姐さん、それじゃシャーリィが潰れちまうよ」
「あああっ!ごめんごめん!」
慌ててシャーリィを離すエレノア。
「……ふぁっく」
恨めしい視線でエレノアの胸を睨むシャーリィ。
「聞きたいこともたくさんあるだろうけど、先ずは風呂に入ってさっぱりしないと!ほら!アスカちゃんもおいで!」
エレノアは二人を連れて帝国では珍しい船の浴室に向かい、ルイスは気が抜けたのかその場に座り込む。
そんな彼にベルモンドは濡れたタオルを手渡す。
「無事で良かったよ、ルイ。また護衛らしいこと出来なくてごめんな」
「良いよ、ベルさんが皆を纏めてくれたのは分かるからさ。俺じゃ無理だ」
「そっか……まあ、先ずは休めよ。詳しい話は、あとからだ」
「おう……ちょっと疲れたわ」
何とか危機を脱して、シャーリィを無傷で連れ帰れたことに安堵するルイスであった。
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