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3 - 音の話

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2021年12月27日

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ある日、音が消えた。


それは普通だとみんなは教えてくれるが、普通だなんてありえない。


俺はここ最近、ローンを払い終わっていない家にこもり、ぶっ通しでゲーム画面とにらめっこしていた。


……所謂、ニートというやつだ。


家にはゲーム用のPCだけでテレビはない。


その話が本当かどうか確かめることも億劫で、まぁいいか、と軽く捉えた。


一度、病院に行こうかと思ったが、残念ながらそんな金はない。


(周りの奴らが普通だって言うんなら、普通なんだろうな…)


声に出しているはずなのに耳に届かず、喉が震えるだけだ。


奇妙な感覚で、違和感を感じた。


背もたれに寄りかかり、ポーズ画面で固まっていたゲームを再開する。


コントローラーがなる音や、ゲームの音が無くなったのは、やはりなんだか寂しいもんだと実感した。




ある日、音が消えた。


音は、職業柄、一番大切なものと言ってもいいものだ。


このままこの状況が続くなら、僕らはやむを得ず、他の仕事につかねばならない。


……こんな世界の気まぐれで、夢を諦めてしまう人がどれほどいるのだろう。


僕らだって、最近ようやく軌道に乗り、ちょっとずつ曲が採用されるようになってきた。


正確には、なってきていた。


どうして世界はこうも理不尽なのか。


あんなにも楽しく、幸せな時間を過ごしていたのに。


今では、あの楽しかった時間が夢だったのでは無いかと思う。


この静まり返ったライブハウスに、もう二度と客が来ることがないと。


もう二度とここで歌を届けることが出来ないと。


そんな未来しか想像出来ない、そんな自分も嫌になってくる。


つう、と、頬に一筋、水が流れた。


一度溢れたら止まらなくて、拭っても拭っても、この気持ちがおさまらなかった。


声を出しているはずなのに、この場所に反響することはなく。


やはり世界はおかしくなってしまったのだと、したくもない実感をしてしまった。




いつもなら机下に常備しておくはずのカップラーメンがきれた。


薄々そんな気もしていたが、時間がなかったのだから仕方がない。


ここまで朝飯&夕飯を10日連続で抜いている。


さすがに空腹も限界を迎えそうなので、不本意ではあるが、外に買いに出ることにした。



✂︎



家のドアを開けると、ここがどこなのか分から無くなるくらいに街が発展していた。


(お、おぉ…こんなにビルあったっけ…?)


外には見慣れない店やビルが数えられないほど多く建ち並んでいた。


いつから外に出ていないかは覚えていないが、とにかく俺の見ないうちにだいぶ変わってしまったようだ。


人が多いのは変わりないのだが、音がないせいでものすごい違和感がある。


人混みにいつまでも混ざっているつもりはないので、できるだけ人が少なそうな場所を早歩きで行き、近くの売店へ向かった。



✂︎



無事、売店でカップ麺を買い、家に戻ってきた。


…が、売店で、音が出ない薬缶とやらが売っていたのが気になる。


カップ麺はそのまま食う派の俺からしたら無縁だが、別に音も良かったのでは無いか、と思ったりもする。


…というか、街の中も、耳が不自由な人が優遇されているのではないかと考えるぐらい、音が聞こえなくなっていてもかなり便利だった。


そういえば、ゲームでもそんなアプデ来てたような…?






使っていたギターもただの飾りでしかなくなってしまった。


音が消えた日からかなりの時間がたったような気もするが、未だに戻る気配はない。


(これからどうしたらいいんだ…)


声に出した呟きさえも虚しく消えていくだけだった。


悲しい嘆きも、幸せな言葉も、楽しい時も。


ついには誰にも届かなくなってしまった。

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