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放課後の部屋。
窓の外では、夕陽が静かに沈んでいく。
康二はソファに座る目黒の隣に腰を下ろした。
「……ちゃんとおるやろ?」
目黒はうなずく。
その視線は、康二の手元に自然と集中していた。
目黒にとって、康二の存在は空気のようだった。
触れられるだけで、息がしやすくなる。
離れると、世界の輪郭がぼやけて、心臓がぎゅっとなる。
「誰かが来ても、ここにおるんやからな」
康二は静かに言った。
目黒はその言葉を、ただ頷いて受け入れた。
言葉の重さが、胸に静かに刻まれる。
教室での視線、廊下での足音、誰かの笑い声――
外の世界の音が、部屋の扉の向こうで遠ざかる。
目黒はそれを怖がるでもなく、安心していた。
“外にはもう意味がない”
そう思えた瞬間、心の奥の痛みが少しだけ溶けていく。
康二は目黒の肩にそっと触れた。
目黒は小さく息をつき、身体を寄せる。
その距離感だけで、世界は閉じ、
ふたりだけの時間が濃くなる。
——目黒はもう、康二のいない世界を想像できない。
——康二もまた、目黒を“守る”ことでしか呼吸できなくなっている。
時計の針が進む音だけが、静かな部屋に響いた。
外の喧騒は遠く、
閉じた世界の中で、ふたりは互いを確かめ合う。
目黒の瞳が、わずかに光を帯びる。
「……康二くん、離れないで」
その声は、微かに震えていた。
康二は小さく笑い、ただそばにいる。
——触れるだけで、支配し、守る。
——離れたくても離れられない、静かな檻の中で。