第7話 裏と表
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(通信開始)
[sideA]
sample:真田 海衆(サナダ カイシュウ)
birth:ロシア連邦/ボリショイ経済州
nationality:Japan(As of 2120)
age:65(As of 2120)
family: none
日本人の父とロシア人の母の元に産まれる。近代日本の租・勝海舟を尊敬する父に名付けられた。ー外交官としてロシアに滞在中の父が現地の娘と結婚、そして出来た子であった。 学問好きで言語学者でもあった父に似ず、ケンカ好きで我儘放題、子供ながらに現地では『”怪衆”ラスプーチン』と呼ばれていた。
海衆が12歳になる頃、外交官の父の役務も終わり、帰国し実家のある北海道へと移り住んだ。
そこで彼は初めて自分と同じ日本人ばかりの村社会を経験した。
それは彼に良い影響を及ぼした。理由の無いケンカはしなくなり、学問にも励み始め、ゆくゆくは父親と同じ外交官への道を歩もうという夢も出来た。
ーそんなある日、痛ましい事件が起きてしまった。仕事帰りに居酒屋で飲んでいた父が酔っ払いに殺害されたのである。
父はその日後輩を労う為、いきつけの居酒屋に誘った。
ー呑み始めて1時間程経った頃、ほろ酔いの後輩がトイレから戻る際、転んで近くで呑んでいた男の飲み物をテーブルにぶち撒いてしまったのだ。
すぐに謝罪したが、その男はかなり酔っており、表に出ろと執拗に後輩に絡んできた。
ー父は怒りを収めようと間に入った。しかしそんな父を男は思い切り突き飛ばした。
…酔っぱらった状態で本能のまま力を込めた男の突きは、父の心臓あたりを強打した。 …もともと心臓が悪かった父はそれが原因で発作を引き起こし、そのまま亡くなった。
男はとある格闘家ということだった。
噂では軍が訓練をアウトソーシングしている武術インストラクターのようだったが、軍は知らぬ存ぜぬの門前払い。証拠も目撃者も無く、父の後輩もその日を最後に自主退職した。
…訃報を受けた母は寂しさからの深酒と奇行を繰り返す様になり、夫の死の通知から1年程経った日、彼の跡を追うようにして湾内メトロで亡くなった。
そしてサナダは仇探しをはじめた。格闘家達を見境なく襲撃する様になったのだ。
しかし相手は当然闘いのプロ、毎度酷い返り討ちを受けていた。
それでもやめなかった。
ある日、いつもの様に急襲が失敗に終わり重症を被った。襲撃相手は朝倉流武道家 “朝倉 悔”という人物であった。
その朝倉にこう告げられた。
“格闘家に勝つのは結局格闘家だ。お前が成るべきはお前が憎む格闘家そのものだ”
「うちへ来い。お前をお前が1番嫌う”格闘家”にしてやる。」
その日から格闘家/朝倉の門弟となり、類稀な才能で数年で師範に登り詰めた。
ーしかし道場破りという名の、武器を使った他流派への襲撃は減ることがなく、幾度となく警告を告げるも行動を改めないサナダを悔はついに破門した。
ーその後のサナダは仕事もせず、あいかわらず仇を探しまわりながら道場破りの名目で格闘家を襲っては金銭を略奪して全国を放浪していた。
しばらくして彼は自身の襲撃を動画にし、父殺しの犯人へのメッセージとして公表する事を始めた。
何らかの情報が得られるとの考えたのだ。
しかしそれは思いもよらぬ方向に振れた。
無関係な一般大衆が反応したのである。襲撃動画は刺激とスリルに飢えていた当時の国民に刺さり、その後の動画もバズり続けた。
配信サイトのみならず、TVCM、公共放送での特番などでも取り上げられ、『サナダ』の名は日本中に知れ渡った。
しかしサナダ本人はいつまでも苛立ちを募らせていた。いくら有名人になっても親の仇の情報は皆無だったからだ。
そして格闘家としての名を馳せてから3年経ったある日、忽然と世間とメディアから姿を消した。
ー長い月日が流れた。
浮世から消えたサナダ カイシュウは40年後のある日突然、新日本軍に入隊してきた。
同期達は格闘家たる実力をまざまざと見せつけられた。
『やはり本物のサナダだ。』
『…凄い。』
『彼は別格だ。』
否応にも自分達との差を意識してしまう。
実力と戦闘センスは教官達をも凌ぎ、
いつしか訓練兵の中でサナダは憧れを通り越し、神格化されていった。
…そこにひょっこり現れたのがマエダだった。サナダを知らない男。
まさか舐めていたとはいえ、技を遮られた上に発言にも逆らってきた。
(…お前は一体何なんだ?)
ーその挙句今朝マエダに言われたあの言葉。
…サナダが自分を表すのに1番否定したい言葉。
…しかしこれ以上なく芯を喰った言葉。
『可哀想な人』
だった。
この一言でサナダの最後の良心は吹き飛んだ。
父を亡くしてから今までのこの50年を完全に否定された気分だった。
(…私の何を知っていると言うのだ!!)
…悍ましい。
マエダが生き続ける事は自分の人生を否定され続ける様なものだ。
(やはり私はお前は生かしておけない。私はこの先も信念の元、父殺しの犯人を探し続けるんだ。)
(たとえ私の人生そのものが復讐で終わったとしても。)
(たとえ私の人生が…)
(通信終了まであと1分)
[sideB]
僕は前田に助けられた。
僕は血の滲む様な努力で労働許可証を取得して上京し、小さなうどん屋台を構えた。
ある夜のことだ。
いつものように店仕舞いを始めていたら、
「食いモンねぇか?」と不良老人どもが集ってきた。
…僕ら若者が働く飲食店とかガソリンスタンド
はシニアギャングの格好のたかりの餌食になっていて、ただ若いだけであらゆるいやがらせを受けるのが日常茶飯事になっていたんだ。
でもこの日はすこぶる奴らの機嫌は悪く、暴れ始めて店が倒壊するんじゃないかってぐらい手がつけられなかった。
ー僕がなにも出来ずに立ち尽くしていると、奴らのストレス解消の矛先が店から僕に変わった。そのうち1人が今ここでこいつを殺っちまおう、と言い出した。
僕は覚悟した。
あぁ。まったくツイてない。産まれる時代を間違えたんだ。
僕は思いつく限りの方法で殴られ、蹴られ続けた。
「…誰か、 …助けて」
そう無言で叫んだときー
薄れゆく視界に映ったもの…
一人の老人が踊りながらやって来て…そのまま彼らを一蹴したのだ。
目覚めた時、僕は彼に抱き抱えられていた。
彼は僕を見てヨイヨイと泣きながら
『偉いやっちゃ』
『偉いやっちゃ』
と呟いていた。
この時僕はまだこの老人が世界を変えるとは知らなかったんだ。
(通信終了)
GPS
シルバニア王国東京都品川区役所通りにて
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