「おい、次は右か? それとも左か……どっちだ?」
「そう何度も聞かれても確かな答えは出来ませんわ」
「何? 確か貴様は水を操ることが出来る魔物だったはずではないのか?」
「あたしにそんな記憶は無いのだけれど……とにかく、しつこく迫って来る魔物を何とかして欲しいものですわ」
先行して進んでいたミルシェたちはアックたちとはぐれ、とにかく先へと歩みを進めていた。しかし、交差する水路や行き止まりの水路に迷い込むなどして思う様に進めていなかった。
さらには、水路にはびこる魔物との戦闘などもあり中々上手く行かない状況を繰り返している。
「ええい、邪魔だ!!」
「ンギエェェッ――!」
「ふん、雑魚め……」
サンフィアは不慣れながらも、両手剣であるフィーサブロスを手にして即座に魔物を斬るということを繰り返すものの、魔物を全滅させるに至っていないのが現状だった。
襲って来ている魔物は水路に巣食うダークスパイダー類。それほど脅威的でもないとはいえ、数が多いことが問題となっていた。
「……ふぅっ、足の多い魔物は苦手ですわ」
「おい、女。この両手剣のフィーサってのも言葉を話すんじゃなかったのか?」
「その小娘なら、基本的に心を許した者とじゃないと口を利きませんわね。それと、あたしはミルシェ。いい加減名前を覚えて頂かないと困りますわ」
神剣フィーサブロスは元々水に濡れるのを嫌悪している。それに加え、相性が合わないサンフィアとミルシェと行動することが確定して以降深い眠りについてしまった。
「ふん、ならばミルシェ。この剣の斬れ味はこんなものか?」
「あら? 魔物なら問題無く斬れているはずでは?」
「アックが使っていた時は魔法を宿していたはずだ。だが、我の精霊ですらも活かすことが出来ずにいるのは何故だ?」
「……あぁ、だってそれはアックさまの剣ですもの。あなたが使いこなせないのは当然なのでは?」
「ちっ、面倒め!」
神剣を使いこなせないまま入り組んだ水路を進んでいた二人は、またしても行き詰まる。
「――この水路の水は嘘つきなのかしらね。それとも、魔力操作で流れている? どちらも大したこと無さそうなのに先へ進ませてくれなくなっているわ」
「水の魔物だった貴様が迷わされるほどの場所か?」
魔力感知が出来るうえ、攻撃威力のあるフィーサが起きていたならば迷うことが無かった。しかし、魔物との戦闘を繰り返しながら先へ先へと進んでいた二人は、冷静な判断を失っていたことで何度も同じ水路に迷い込んでいる。
「確かにあたしは海に長くいた魔物でしたわ。だからといって、こんな訳の分からないダンジョンの水を信用出来るほど水に詳しくもないですわ!」
「貴様がさっき言っていた水が嘘をつくっていうのはどういう意味だ?」
「一見何気なく流れている水だけれど、これを流しているのが魔物もしくはタチの悪い術者だとしたら、意図的な流れであるその水は嘘つきになりますわ」
特に深い意味を持たない言葉を出すミルシェは、少しずつ落ち着きを取り戻そうとしていた。
「理解出来ないことを並べてないで貴様も戦闘に協力しろ!」
「あなたこそ、まやかしから抜け出せる手段を考えて欲しいものですわ」
「まやかし……? ふん、なるほど。それならば我の手でやるしか無いだろうな!」
「ええ、期待していますわ」