コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
僕はコンビニに寄って、アイスを買っていた。この寒い中アイスは奇抜だけど、僕はクリーム系のものをよく食べる。まあ、今はそんなことどうでもいっか。今とにかく大事なのはあの予知夢だろう。
僕は近所の公園に立ち寄り、ベンチに狙いを定める…と、そこに人影があった。フーディーを目深に被ってて、体のラインからして女性だろう。普段ただ浮浪者が居るだけなら声をかけたりなんてしないけど、女性だし、僕はそこに座りたい。声をかける理由はある。
「あのー、すみません。そこ座っても?」
「あ、ごめんなさい。どうぞ。」
声の感じからして若い。姉さんみたいな酒焼けもしてないし、しゃがれてるわけでもない。
僕は買ったアイスを開封しながら、ちょっとだけ雑談することにした。
「こんなところで寝てると、風邪ひきますよ。これからもっと寒くなる。」
「あはは、それ、寒空の下でアイス食べてる人に言われたくないなあ。」
笑ってこそいるが、覇気は無い。きっとここへは、何か理由があってきたんだろうな。
「じゃあ、食べてみますか?気晴らしになるかもしれない。」
「ん?いいの?」
元々は姉さんの分だったが、まあ、困ってる子がいるから、仕方がない。
彼女は僕に向き直って、ついにフードの下の顔が確認することができた。あれ?この顔、夢で見たあの子だ!僕は思わずベンチから立ち、距離を取ってしまう。
「あれ、ごめんなさい。何か気に障るようなことしちゃいましたか?」
「あっ…。ああ、すみません。昔の知り合いに似てたもんで、ね。」
「ふふ。あはは。何その口説き文句。イマドキ古いですよ。」
今度の笑いは元気が少し戻ったようだ。しかし、僕は釈然としないままアイスを渡してしまった。
「でも、それ食べたら家に帰るって、僕と約束してください。最近は何かと物騒ですから。」
「むう、いけずなんですね。」
「僕からできる最大限の優しさです。」
他所の家に首をツッコむわけにもいかないし。きっと彼女は家出か何かだろう。食べているところ悪いけれど、僕は構わず質問する。
「君は…高校生ですか?」
「うん、一応、そういうことになる…。」
「もしかして、叶ヱ学園の?」
「え!うん。そうそう!もしかして貴方もそうなの?」
「ええ、同じだったら嬉しいなって、思って聞いちゃいました。」
「そうなんだ…ねえ、私ね、引きこもってたの。学校にも行かなかった。」
ああ、だから、一応、などと予防線みたいなのを張ったのか。どおりで校内では見た事のない顔だったんだ…。でも、聞かずとも話してくれて嬉しかった。きっと、彼女自身も誰かに話したかったんだろう。
「じゃあ、どうして今日は外出したの?」
「んー、練習?この時間はやっぱり誰も居ないからきっと外出出来るって思ったの。出席日数が足らなくてね、覚悟を決めて登校することにしたの。今日はその練習。
私は、出来れば外に出たくないけれど、ママとパパに迷惑かけたいわけじゃないの。」
そういうことか。留年してしまえば、ご両親にはきっと迷惑がかかる。それは余計な心労だけじゃない。学費などの現実的なことだって、親は負担しなくちゃならないよな。
「私は今日登校するの。」
「きっと君なら大丈夫かも。こんなに元気な女の子なら、友達だってすぐにできる。怖いなら、僕がついてる。」
「本当に口説いてる?」
「い、いや、そういうつもりじゃなくて…。ただ、その、僕も1人で登校してるからさ…僕もそうだったら嬉しいんだ。一緒に登校できたら君も気が少し楽になると思ったし、悪い提案じゃないと、思って。」
これから嫌いって言われるであろう女の子だけど、放っておくわけにもいかない気がしたんだ。そのハツラツさは、ひどく頑丈なようでひどく脆弱なようにただ感ぜされた。
「確かに、私とってもありがたいかも。登校しやすくなるよね。」
僕は彼女がアイスを食べきったのを確認して、ベンチから立つ。そろそろ帰らなくちゃね。朝日も登ってきた。
「登校するのは今日から、ですよね?じゃあ、ここで待ち合わせにしましょう。」
「わかったよ。遅刻厳禁ね!」
「こっちのセリフだ!」
僕は完全に上り始めた朝日から逃げるように家に帰った。彼女も無事に家に着いてるといいなあ。
僕の寝床に着いて速攻で2度寝を決め込んだ。長い寄り道だったなあ。あ、アイス食べてから歯を磨いてないや。虫歯になるかなあ?いや、1日くらい大丈夫だよな。そんなしようもないことを考えながら微睡んでった。
煩わしいアラームで目覚める。あーうるせ。少し外を出歩いたせいか、今日は寝起きが悪かった。いや、予知夢のせいかもしれない。そうしておこう。時計の在処を探して、上部のボタンを叩く。やっと収まった…。
「んんー…ああ。」
めんどうだけど、準備しよ。今だけはあの女の子が部屋に引きこもる気持ちが分かるなあ。
姉さんが羨ましい。夜遅くまでお酒を飲んで、昼まで寝る生活。きっと彼女なりの苦労があった末なのだろうけど、羨まずにはいられない。
「ごはん…。」
朝ごはんかあ。作ってくれてありがたいけど食べる気にならないなあ。とりあえず僕は机に置かれた母の手作りのご飯をレンジで温めでお腹に流し込んだ。
「弁当も持った。カバンも良し。じゃあ、行くか。」
目指すは学校ではなく、あの公園へ。きっとあの女の子が待っているはずさ。
公園に到着したら、昨日の明け方と同じ場所で彼女は制服に身を包んで居た。
「あ、おそい!」
「おはようございます。って、そのネクタイの色…。」
叶ヱ学園は、ネクタイの色で学年がわかるようになっている。ローテーションで3色の赤、紺、緑を使う。生徒間では緑はダサいためハズレだと言われているが…。ちなみに僕は緑色で、2年生だ。
「あれ、先輩さんだったんですね。」
そういえば、お互いの名前も知らないまんまだ。自己紹介しなくちゃな。
「僕の名前は近藤啓示。叶ヱ学園に通う2年生さ。」
「わたしの名前は与田一花。通ってるわけじゃないけど…今日から通います。」
木が冬支度を始める、季節外れの自己紹介が終わり、僕たちは当たり障りのないお話をしながら、その葉を踏まぬよう、道を歩んだ。彼女のネクタイの紅色は、紅葉とよく似合っていた。