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白山小梅
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:◇
結局、あの女の子が誰だったのか、完全にはぐらかされてしまった。
でも、あたし以外には触らせないって約束もくれたし、言いたいこともほんの少しは言えたので、満足度は高い。単純な満足度だ。
黙って買った水着も、なんて思われるかドキドキ反面、ハラハラしていたけれど、どうやら柊的には良かったらしい。
嬉しそうな反応は1ミリも貰えなかったけれど、プールから上がるとすぐにバスローブでぐるぐる巻きにされてしまったから、なにごと?と不安に思うと、
「男もいるから、見せんな」
って、ずるい言葉を聞かせたのだ。あれは反則だ。
現実離れした世界とサヨナラをして、帰路に着いた。バスの中で柊は「手、ふやけちった」と見せてくるから「え?ほんとに?」と自分の手のひらを翳すと「スキあり」と手を攫われてしまった。
まあ、いっか。
キスよりも甘い、柊の手のぬくもり。繋いだ時にしか分からないあたたかさが、愛おしい。
今日は柊の家に泊まる予定なので、途中、コンビニに寄ってチューハイを何本か買った。柊はバーテンダーなので、お家でも簡単なのを作ってくれるかな?とちょっとだけ期待したけれど、家では作らない派らしい。残念。
マンションの五階にある部屋にたどり着くと、むわんとした夏特有の熱気が迎える。
「あちいー、この時期の為だけにスマートエアコン欲しいわ」
柊はかなり不快指数が高まっているらしく、すぐにクーラーを付けた。
でも、あたしは柊のにおいがする部屋は全然不快ではない。むしろ、好き。ウェルカム。もっとください!な、完全に柊ホイホイな女である。
柊はコンビニで買ったお酒やツマミが入ったビニールをテーブルの上に乗せると、その流れで、ひょい、と手招きしてくるので、ホイホイされるあたしはもちろんその手に釣られる。
エアコンが大きな音を吐き出したタイミングとほぼ同時にソファーに押し倒され、世界が反転した。
目の前にある、吸い込まれそうなほど綺麗なアイスブルーの瞳に、うっとりとしつつ、我に返る。
「ちょっと、これは流石に暑い」
「そ?俺は全然暑くない」
「さっき、でっかい声で、暑いって言ってたの誰よ」
「誰だろうネ?」
到底、抵抗とは言い難い口喧嘩をしていると、固いソファーにあたしを組み敷いた柊は、軽くくちびるを押し当ててくる。
もちろん、一度で終わるはずはなく、何度か角度を変えていくうちに、次第に強引ともいえる熱烈な口づけに変わる。否応なしにハジマリを予感めく。
「っ……、チューハイ、温くなるよ」
「じゃあ、ぬるくなる前に終わらそっか」
「まだ飲まないの?」
「今日は、さきに柴崎な気分」
その前置詞は必要なのか。大体、毎回先に頂かれている気がするのは、あたしの気のせいか。
食まれたくちびるは唾液にまみれ、あたしの舌は柊に攫れてコントールを失う。呼吸さえも蕩けてしまうほど濃密なそれに、だんだんと心が奪われていったのだ。
こうなれば、完全に柊のペースだ。セックスのプロセスにおいて、柊より優位に立ったことがない。というか、立たせて貰えない。
セフレだったころと違って、柊はやたらとキスをしてくる。それも、呼吸が困難になるほど濃厚なものだ。手を繋ぐことだって、人前でベタベタしてくることだって、あたしが知らなかっただけで、全部柊碧音っていう人の意外な一面。
「そうだ。柴崎、明日バイト?」
しかし、意地悪な一面は変わらず残されている。そんなの、胸の突起を口に含んでいる最中に言うことではない。
いじめられ、濡れた胸の尖端は、冷えた部屋の空気にさらされているせいかつんと尖っている。
「うん……いちおう」
狭いソファーの上で、身長のある二人が寝そべるのは心許なく、今、あたしは胸に埋める柊の頭部を抱きしめている体制である。
「つぅか思ってたんだけど、居酒屋のバイトって、終わんの遅くね?変えねーの?」
「変えないよ、メンバーみんな、いいひとたち、だし……」
「えー……?変えないのかよ」
谷間から顔をのぞかせ、おっきな子犬みたいな目で見上げてくる柊は、どうやらあたしの答えがお気に召さなかったのか、唾液に塗れた胸の先端をぐりぐりと指で捏ねくりまわす。
気に入らないくせに、あたしが好きな方法を取るのって、とってもずるい。
「ひぁッ……んん……っ、ひいらぎ、だって、」
「んー?俺がなに?」
「終わるの、あたしより、遅いじゃん」
「ふは、なにそれ。俺は男だから良いんですよ」
良くないわ、ばか。
ぎゅっと目に力を込めて柊を見上げた。あたしと違って、まだ瞳に余力を残した柊は、緩やかに目を細める。
それがあまりに扇情的で、容赦なく感情を煽ってくる。
「ほとりちゃんは危機感がほんとに低いから、俺は気が気じゃないのよ。これでも」
絶対うそだ。いつも余裕なくせに。あたしの反応を見て、面白がっているだけなくせに。