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「……イリア様。おいたが過ぎますよ」
背後から響いた、いけ好かない声。
「……ふん」
振り返るまでもなかった。
最初から来ることは、分かっていた。
心配性のお姉様のことだ。
私がどれだけ拒んでも、アランを向かわせたに決まっている。
――だからこそ、私は火柱を上げたのだ。
いい加減、素直になれ、とも思う。
「まったく……。危うく屋敷全体が、火の海になるところでしたよ」
「別に。助けてくれなんて、言った覚えはないのだけど」
むすっとしたまま睨みつける。
けれどアランは意にも介さず、淡々と白い手袋をはめ直し、こちらを見据えた。
「イリア様を助けに来たわけではありません」
一拍置いて、続く言葉。
「……レイラ様が、お待ちですので」
その名を聞いた瞬間、
私たちは同時に、フロアへと視線を移した。
燃え残る屍。
うごめく影。
まだ終わっていない、戦場。
「――お掃除と、参りましょう」
その声に、私は小さく鼻を鳴らした。
……仕方ない。
今だけは、手を組んであげる。
その言葉と同時に、屍人たちがこちらへと殺到してきた。
焦げた肉の臭いに引き寄せられたのだろう。階段の下、玄関フロア、割れた窓の向こう――数が、増えている。
「ちっ……!」
私は即座に魔力を練り上げる。
背後に炎の魔法陣が展開され、灼熱が空気を震わせた。
「焼き――」
言い切る前に。
「抑えてください」
低い声と同時に、アランが床へと魔法陣を展開した。
次の瞬間、
床を這うように奔流が走る。
水が、屍人たちの足元を絡め取り、凍りつくような冷気と共に動きを奪った。
転倒し、折り重なり、もがく屍人たち。
「……っ」
――悪くない。
「今です」
その一言で十分だった。
「燃えなさい」
解き放たれた炎が、水に囚われた屍人たちを一気に包み込む。
水で動きを止め、逃げ場を奪ったところへ、私の炎が叩き込まれる。
轟音。
蒸気が爆ぜ、白煙が天井まで立ち昇った。
「……ふん」
思わず鼻を鳴らす。
「足止め、上手じゃない」
「炎の制御も、想像以上ですね」
淡々とした声。
だが、ほんのわずかに――評価が混じっている。
気に食わない。
……けれど。
次に突っ込んできた屍人の群れへ、私は炎を放ち、 同時に、アランの水が壁のように展開される。
水で押し返し、
炎で焼き切る。
遮断。
殲滅。
――噛み合っている。
「……言っておくけど」
屍人の頭部を焼き落としながら、私は言った。
「あなたの水魔法、嫌いよ」
「光栄です。相性が最悪という意味でしょう?」
「そうよ」
……なのに。
私の炎は、彼の水があるからこそ、最大限に生きている。
無駄に燃え広がらず、
狙った場所だけを、確実に焼ける。
認めたくはない。
けれど――
「……足、引っ張らないで」
「そのお言葉、そのままお返しします」
屍人の最後の一体が、蒸気と共に崩れ落ちる。
静寂。
私は、魔法陣を消しながら、小さく舌打ちした。
――悔しいけど。
アランは、使える。
それだけは、認めざるを得なかった。