増田剛は芦屋の高級住宅街の一軒家に一人で住んでいた、以前住んでいた甲子園広場近くの小さなアパートに、一度鈴子が訪ねた時、あまりに質素なのに驚いて彼女は言った
「これじゃネズミ捕りじゃないの・・・あなたにふさわしくないわ」
それからすぐ、鈴子は会社の名前でこの住宅を購入して増田に住まわせた、セキュリティや光熱費はタダ同然で、鈴子のおかげで良い暮らしが出来ている、彼は今や伊藤ホールディングスになくてはならない存在だ
ある夜、二人は遅くまで残業していた、仕事をようやく終えて鈴子が言った
「疲れてるみたいね剛、今日はもう遅いから、また明日にしましょう」
「そうするかい?」
増田はあくびをした
「それでは、また明日の朝にでも・・・」
「いいえ、明日はゆっくり寝て、あなたは午後にでもいらっしゃいよ」
増田はハンドルを握ると家路についた、ドサッとスーツの上着を投げ捨て、広すぎるリビングのソファーにゴロンと寝転んだ、彼の頭の中にあるのは、済んだばかりの取引きの事と、そこで鈴子が発揮した見事なまでのビジネスセンスだった、彼女はその名声にふさわしいやり手だ、一緒にいると胸がワクワクする、と同時にフラストレーションもたまる・・・
一度鈴子とそういう関係になったが、今だに彼女は雲の上の存在だ、しかし彼はまだ二人の希望を捨てられなかった、心の片隅でいつか奇跡が起こってくれるのではと淡い期待を抱いていた
きっと鈴子は俺を愛してくれてるはずだ・・・俺達は似合いだ・・・
―待たせてごめんなさい・・・私がずっと愛しているのはあなただけなの・・・―
増田の想像の中で鈴子が甘い声で言った、そして彼は今日着ていた鈴子の服を脱がせた、ズボンのファスナーを下ろし、硬くなった自分自身を掴む
そして、パリで鈴子と結ばれたあの夜をまた思い出した
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