神楽坂が隠された力を解放し、呪詛の王に挑んだ。呪術は驚異的な威力を誇り、一時的に呪詛の王の攻撃を食い止めたかに見えた。しかし、神楽坂の体は、彼の限界を超えており、光が消えると同時に彼はその場に崩れ落ちた。
「神楽坂…!」
朱音は名を叫び、彼のもとへ駆け寄った。神楽坂の顔色は蒼白で、息も途切れ途切れだ。彼の体はもう動かすことすらできない状態になっていた。
「朱音…ごめん…もう…力が…」
朱音は必死に彼を支えながら、涙をこらえていた。彼女の心には恐怖と無力感が押し寄せ、目の前で仲間を失うことが現実味を帯びていく。
その時、朱音たちを襲っていた呪詛の王の姿が、静かに彼らの前に現れた。彼の黒い影は相変わらず威圧的だったが、何かが変わったように見えた。朱音はその視線を感じ取り、立ち向かおうとしたが、呪詛の王は意外にも攻撃を止めた。
「…愚かだ。」
呪詛の王は低い声で言った。その声には、かつての冷酷さとは異なる、どこか悲しげな響きがあった。
「なぜお前たちは、命を懸けてまで戦うのか…。死ぬとわかっていて、なぜここまで足掻くのか。」
朱音はその言葉に戸惑いを覚えた。呪詛の王は、これまで見せたことのない「情」のようなものを漂わせていた。それは、彼がただの冷酷な破壊者ではないことを示していた。
「お前たち人間は、あまりにも脆い。神楽坂のように、限界を超えて戦っても、死にゆくだけだ。だが…なぜだろうな。私には、お前たちのその愚かな生き方が、理解できない。」
呪詛の王の声には、どこか寂しさが混じっていた。それは、何世紀も戦い続け、破壊を求めてきた彼の心に芽生えた、わずかな「情」の欠片だったのかもしれない。
朱音は呪詛の王の言葉を聞きながら、怒りと悲しみが交錯する中、立ち上がった。
「神楽坂は…私の大切な仲間よ。彼が命を懸けて戦ったのは、私たちが守るべきものがあるから。それがどれだけ愚かだとしても、私たちは立ち止まれない!」
彼女の言葉には強い決意が込められていた。呪詛の王の前に立ちはだかり、彼女は自らの呪力を再び呼び起こした。
「あなたが何を考えているかは知らない。でも、私は…絶対に神楽坂を失わせない!」
朱音の瞳には燃え盛るような炎が宿っていた。彼女は自らの全てをかけて、神楽坂を守り抜こうと決心した。
呪詛の王は、朱音の言葉に沈黙を保ったまま、彼女を見つめていた。彼の表情は変わらないが、その瞳の奥には、わずかな迷いが見て取れた。
「…お前は、まだ戦うつもりか。自らの命を賭けてまで。」
呪詛の王は静かに問いかけた。彼の声には、かすかな寂しさが漂っていた。
「そうだ…私は戦う。仲間を守るために、命を懸けて。」
朱音は毅然とした態度で答えた。呪詛の王は再び沈黙し、その巨大な影を静かに動かした。
「愚かだな…だが、それが人間の強さなのかもしれない。」
そう呟くと、呪詛の王は彼らに背を向けた。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!