しっとりしていて熱くて、ひどく柔らかい。
いつもの毅然とした聡一朗さんとは似ても似つかないその生々しい感触に、あろうことか私の身体の熱はもっと高まり、甘い刺激に貫かれ呼吸が荒くなっていく。
息が苦しくなって首をのけぞらせた。
私は口をみっともなく半開きにして酸素を求めながら、聡一朗さんを見上げる――けれども、呼吸も整わないままに、もう一度唇を重ねられた。
びくりとなる。
いきなり舌が入りこんでくる。
片腕だけに抱きすくめられ、もう一方の手で首筋を嬲られ、さらにもっとしっかり熱と快楽を感じさせるように、強引に執拗に激しく貪られる――。
全然嫌じゃなかった。
むしろ、歯列を舌でなぞられる感触も、舌が私のそれに絡みつく生々しさも、なにもかもが蕩けるほどに気持ちよくて、つい甘たるい声まで出てしまう。
ああ。
身体の真ん中の奥が熱くて、ズクンズクン昂って、蕩けそうになる。
もうこのまま。
もっともっと。
聡一朗さんとひとつになりたい。
気付いたら私も夢中で舌を絡み合わせていた。
聡一朗さんの淫猥な舌を受け入れ、彼がするように舌の動きを従順に真似て、淫らに聡一朗さんに染まっていく。
貪るように首筋まで食まれ、片手で巧みにホルターネックのホックをはずされたところで、聡一朗さんは荒い息をしながら獣のように身を起こした。
「……ぜんぶ、今だけは、酒のせいにしてもいいか」
余裕のない掠れた声を発した唇は、血が滴るかのように赤く濡れていた。
今まで見たこともない激しい欲望に染まりきったその顔は、まさに性欲に支配された雄の顔だった。
返事する間もなくタガが外れたように激しく愛撫され、私は攫われるように初めて体験する快楽の世界に堕とされていった。
※
いつも以上に、眩しい朝日。
高層マンションの部屋に差し込む日差しは強い。
特に今朝は一段と眩しく感じるのは、普段はカーテンをしている窓が剥き出しだったせいだ。
昨晩は、酔い潰れて聡一朗さんに部屋に運んでもらって。
煌びやかな夜景に囲まれながら聡一朗さんと――
たしかめるように、そばで眠る人の素肌のままの胸に頬をあてた。
温かい。
鼓動が聞こえる。
甘い幸せが胸を満たして吐息をもらした。
二日酔いの鈍い頭痛も吐き気も、気にならなかった。
魅惑的な一夜の記憶に意識を託す。
獣のように性欲に支配されていても、やっぱり聡一朗さんは冷静だった。
終始丹念に優しくリードしてくれて、私の身体を隅々まで愛撫し、所有の証を刻むかのごとくキスを繰り返した。
そのひとつひとつにまるで甘い媚薬が含まれていたかのように、私は初めての経験だったというのにトロトロに快感に溺れてしまって、淫靡に乱れた。
初めて味わった聡一朗さんは熱くて大きくて強くて激しくて、それでいて優しくて大らかで巧みで――。
はぁ、と昂り始めた身体の熱を吹き消すように、私は小さく吐息した。
心地よい疲労感が身体中を満たしている。
中心には、じんとする痛みがある。
まだ聡一朗さんが残っているみたいで、それすらにも甘い喜びを覚える。
まだ固く瞼と唇を引き結んで規則正しい寝息を立てているその秀麗な寝顔を見つめた。
ずっと、ずっとこの時間が続けばいいのに。
『今だけは、酒のせいにしてもいいか』
どこか自分に言い聞かせるように言って、聡一朗さんは理性を打ち捨てた。
『今だけは』
きゅっと胸が痛んで、私はそっと聡一朗さんの指に触れた――すると聡一朗さんが反応して、私の手を握り返した。
起きている?
そう思ったけれど、寝息は変わらず深い。
どうして――。
私は訴えるようにその熱い肌に頬をすり寄せた。
あんなに激しく、こんなに切なく求めてくれているのに。
どうして「今だけ」なんて言うの――。
「ん……」
聡一朗さんが身じろいだ。
うっすらと瞼が開いた。
そうして、ゆっくりと瞬きすると、私を見つめた。
「起きてたのか?」
低い掠れた声で言うと、私の手を握っていた手を動かし、頬を撫でてくれる。
「おはようございます」
そっと返して私は微笑んだ。
「二日酔いか?」
からかうように聡一朗さんが訊いた。
私は照れるように苦笑いをした。
「はい、頭が重いです」
衣擦れの音がして、聡一朗さんの長い腕が私を優しく包んだ。
ラインを楽しむように、背中から腰をそっと撫でる。
掻痒感とともに、昨晩の記憶がまた甦る。
身体中にキスを施されたけれども、特に背中は丹念で多かった。
『今夜のドレスは反則だ。ずっと脱がせたくて、堪らなかった』
快感で頭が一杯でうろ覚えだけれど、聡一朗さんはたしかそう言った気がする。
そしてキスを繰り返して、私からドレスを脱がせていった。
その背中が、今も優しい手つきで愛撫されている。
胸がきゅっと苦しくなって、私はその逞しい胸に額をすり寄せた。
間もなく終わるだろう、この幸せな時間を名残惜しむように。
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