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第1章 有名アイドル
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渡辺が帰ったあとも、サロンには妙なざわめきが残っていた。「やば…本物だったね」
「今日めっちゃラッキーだったかも」
アシスタントや先輩が小声で盛り上がっている。
僕はドライヤーを片付けながら首をかしげた。
「そんなに有名なの?」
「え、いわもっちゃんマジで知らないの?SnowManだよ、SnowMan!」
先輩が目を丸くする。
「ごめん、わからん。なんなん?歌う人?」
「歌も踊りも芝居もバラエティも。ジャニーズの中でも今勢いあるグループだってば」
横からアシスタントが口を挟む。目がキラキラしていて、まるで自分のことみたいに誇らしげだ。
「ふーん……」
僕は曖昧に相槌を打った。正直、アイドルとか芸能界のことにはまったく疎い。仕事柄、お客さんとの会話で芸能人の名前が出ることはあるけれど、頭に残らない。
それでも。
さっきの渡辺の表情や声の響きが、どうにも頭から離れなかった。
シャンプー台で手を動かしているときも、カットのハサミを入れているときも、ふと気がつくと彼の笑顔を思い出している。
「あ、美容はプロに任せたいから」――あの言葉は、どこか素直すぎて。
芸能人ってもっと距離のある存在かと思っていたのに、意外と普通で、でも普通じゃない。
営業が終わり、店を閉める準備をしていると、再びスタッフたちの話題は渡辺に戻った。
「SNSで見たことあるけど、やっぱ実物はオーラ違うね」
「舞台もやってるし、歌もうまいし」
「この前のライブ映像マジでやばかった〜」
「へぇ、ライブとかもやってるんだ」
僕が思わず口を挟むと、アシスタントが嬉しそうに振り返った。
「そうそう!SnowManのライブめっちゃ人気で、チケット全然取れないんですよ。友達も何回も落選してるくらい」
ライブ。
僕の中であまりに縁遠い言葉だった。
でも、そこまで人を夢中にさせるグループってどんな存在なんだろう。
片付けを終えてロッカー室で着替えながらも、頭の隅に「SnowMan」という単語がずっと居座っていた。
スマホを手に取り、何気なく検索窓を開く。
指先が入力を迷っている。
――SnowMan。
最初の3文字を打ち込んだだけなのに、妙に心臓が早くなるのを感じた。
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