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不感症だと思っていた。
一生、男と関わらずに生きていくんだと思い込んでいたのに。
はじめての相手に三度もいかされた。どういうことだこれ。
「……なにひとりで百面相してる」あたたかい課長の声が、ふわっと落ちる。前髪のあたりに。「いま考えてたこと、おれに、言ってみて」
「……言えません」恥ずかしくて。
「もっと、近くに来て、莉子……」
わたしは課長の言葉に従った。
すっぽりと、彼の腕に包まれる。女のやわらかいからだは男に包まれるようにできているのかもしれない。
それくらい、フィットして、心地がよかった。
「課長……」
「して欲しいの? そういうこと?」
「ちが……」
ははは、と笑った課長はわたしのまぶたにキスを落とす。前髪をかきあげおでこにも。ちゅ、と音を立てて。
キスって、音を立ててするんだ。初めて知った。
「なあ」わたしを抱く課長の手が離れる。「莉子から、おれに、してみて」
「ええと……」
「莉子って照れ屋さんだよな」
「まだちょっと、混乱してるんです。課長とこんなことになるなんて……」
「おれはずっと夢見てた。
でもいつかこうなると確信、していた」
「すごい自信ですよね」わたしは音を立ててその自信家にくちづける。「いまの展開も、予想してたんですか」
「いいや」どうしようおれ、と課長はうえを向き、「すごく照れる」
「課長こそ照れ屋さんですよね」わたしは、彼の胸板に顔を預ける。ほっぺたで彼の鼓動を感じる。
どくん、どくん、と生きていることを、伝えてくれる。
課長の手が、わたしの後頭部のカーブをなぞる。
と、その手が無防備な背中をさわさわするから、ちょっと課長、とわたしは身をよじらせる。
「莉子って、感じやすいよな」
それはわたしも今日初めて知ったこと。
顔を横に向けたわたしの目にカーテンが入る。部屋が薄暗いから忘れていたけどそういえばいまは真っ昼間。白昼からなんて事態だ。
「悪いですか」わたしは顎を彼の胸に乗せ、課長を見あげる。と課長は、わたしの肩を抱き、自分の顔のところにわたしの胸を持ってくると、
「ううん、すごくいい」
唇をつける。
「あ。ちょっと、課長ぉ……」
だめですって。
わたしの抗議を無視して、
「立ってる」口を離すと。正直な状態を指摘する……。
課長は、上下を逆転させ、わたしを寝かせた。否応なくわたしを貪る。わたしが見ていることに気が付くと、視線を結んだまま挑発的に刺激する。いやらしいくらいに。こちらが黙ってこらえていると、じれったくなったのか、唇で挟み込み、強く、引っ張る。たまらず、声を出す。
と満足気に彼が笑う。その顔が。
いますぐ挿れて欲しいと思えるくらい、色っぽかった。
彼はふたたびわたしを味わう。そのまま素早く手を下ろし、
「ほら、濡れてる」
からだと、こころは、繋がっている。わたし――たぶん。いや、間違いなく。
課長に愛されることを望んでいる。
そこからは彼の独擅場。一度ならず二度もいたらしめた彼は、わたしの感じるところを注意深く攻め、言葉で輪郭をなぞり。
確かめながら着実に導いていった。のみならず。
初めての、そういう事態にいたらしめた。わたしは――
自分に起きたことが信じられず、強すぎる余波に唇を噛む。聞いたことはあったけど。まさに排尿に近い感覚。
課長は、震えるわたしの頭を撫でると、
「莉子。かわいい。大好き……」
愛の言葉をくれた。
*