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ひとしずく 翔馬の場合

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ひとしずく 翔馬の場合

20 - 第20話 拘束されている

2025年07月06日

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一度返済したことで(たとえわずかでも)、俺に対する信頼は上がったはずだ。その証拠に、ランチの間もミハルのおしゃべりが止まらなかった。それに合わせて、俺もつられて喋った。久しぶりに笑った気もする。


「じゃあ、また…」


「うん、またLINEするね。今日はありがとう。スマホも止められずに済むから、ミハルとのつながりは切れない、安心したよ」


「うん、私も。また会ってね」


ご機嫌な様子で帰って行った。


___この様子なら、またしばらくしたらお金を引き出せるかもしれないな







「今日はどこへ行ってたの?」


「えっ?」


その夜のこと。いきなりの香澄からの問いかけに、驚いてしまった。


___まさか、またミハルといたことがバレた?


「会長が、連絡がつかないと言ってたから」


ミハルと会う前に着信があったことを思い出した。


「ちょっとね、入院した友達に会いに行ってた。隣街まで」


___しまった!余計なことを言ってしまった


どこに行ったかなんて聞かれてもいないのに、こちらから言ってしまった。


訝しげな顔で俺を見る香澄。不安とか怒りとかそんな表情ではない、呆れているのか?読み取ることはできない。


「そう。あとで連絡しておいて、会長に。なんだか気にしてたようだから」


「あ、うん、わかった」


また、ミハルとのことを問い詰められるのだろうか。会長の顔を思い浮かべたら息苦しさをおぼえた。


「もしもし、俺です」


『翔馬か。明後日から3日ほど、ある女性をエスコートして東京まで行ってくれ。最上級のもてなしをよろしく頼む。留守にすることは香澄には話してある』


「…はい」


『今日はどこへ行っていた?まさかとは思うが…』


「友人の見舞いに」


『そうか。その友人は女でないと思っていいんだな』


___やはり牽制してくるか


「当然です。では失礼します」


見えないロープでぐるぐる巻きにされているようだ。俺の意思や感情は、会長にも妻である香澄にもなんの関心もないようだ。そもそも感情なんて持つ必要のない結婚だったんだ。


___“愛してる”と言われたい


ミハルの声が聞きたくなった。そう思う自分を、悪くないと思い始めた。








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