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#ご本人様には関係ありません
れれれ
12
あわ
258
最近SNSでの情報発信を心掛けている。
もうすぐでインスタフォロワー数も100万人。他のメンバーの足を引っ張らないようにしなければ、と苦手な自撮りも少しずつだけどアップするようにして投稿頻度も上げるようにしている。
ここまでの道のりは本当に長かった。
数年前と比べても遥かに知名度が上がっていると感じられる。
昔から応援してくれているファンもいれば、新しく自分を知ってくれた人もいて、SNS上で届けられるメッセージは暖かさに溢れている。
本当にありがたい。
ただ。
たまに…、いや結構な頻度で。
とても過激な発言が届くのもまた事実だ。
「はぁ、また…」
お風呂上がりに自室でエゴサ、なんてすっかり俺も芸能人みたいなことをやっている。
最近公式アカウントから上げられた動画にはありがたくもたくさんの反応があった。それに何気なく目を通していくと、最初から最後まで「さのじん」にまつわるコメントが無数。
その中には、本当に俺たちが付き合ってるんじゃないかとか、俺の勇人を見る目が女の子のそれだとか、もう言いたい放題。
『仁人、絶対佐野さんのこと好きだよね?』
『顔が乙女!』
『怒ってる表情もぶりっこで可愛い!』
『二人の距離感バグっててしんどい』
スマホ画面の上に指を走らせると、次々に熱のこもったコメントたちが流れていく。
普通にしてるだけなのに、すぐこうやって騒がれる。何が彼女たちの妄想を掻き立ててしまうのか。頭を悩ませる日々で、俺はもともとの勇人との距離感が分からなくなってきていた。
最近撮影していても、これをやったらまた言われるのかな、とか、勇人のファンから見たら俺は絡まない方がいいんじゃないかな、とかいろいろ意識して考えてしまって。結果、昔のように無邪気に絡めずに、遠巻きにグループメンバーを見るようになっている自分にも気づいている。
「…寝よ」
もう毎日のように浴びる熱烈なコメントに、俺は胸焼けを起こしてしまい、ベッドに傾れ込むと、ここ最近の疲れも相まってそのまま深い眠りの淵へと落ちていった。
翌日はまたメンバー全員での撮影日。
5人で前後に並んで画角に収まるように配置につく。
俺は前列の画面向かって右側。その隣は柔太郎。
後ろには左から太智、勇人、舜太の順に立っている。
新曲1000万回再生記念の撮影だった。
お祝いのケーキがスタッフから俺に手渡され、落とさないように、柔太郎と二人で支えながら、カメラに納める。
ひとしきりみんなで喜びを分かち合った後、柔太郎がフォークでケーキをすくって、俺の口に運んできた。
「はい、あーん」
柔太郎の穏やかな微笑みに、俺もなんとなく浮かれて、パクッとケーキを口にした。甘さが口に広がって、柔太郎に優しく見つめられて、幸福感が広がった時だった。
「え、俺も仁人に食べさせたい!」
それを見た勇人が、いつものように絡んできた。
あぁ、またこの流れ。
前なら全然抵抗なくできたはずのノリなのに、最近の俺にはしんどくて、目も合わせずにただ顔を顰めてみせるだけ。
「いや、もういいて」
「なんで!柔太郎は良くてなんで俺はやなの!」
まるで子供のように主張する勇人を、俺は見ることができないでいて、手を振ってお開きにしようとする。
しかし勇人はそれが気に食わなかったようで、ムキになったのか、ぐわっと大振りにケーキを取ると、無理やり俺の口に持ってきた。
顔を極限まで後ろに下げても、しつこい追及についに捕まってしまい、俺はしぶしぶ口を開けて、ケーキを受け入れた。
先程と違ってかなりな圧迫感。
頬がパンパンに膨らみ、咀嚼するのも精一杯な大きさで、俺は思わず苦しさから抗議の目で勇人を睨みつけた。
「どう?おいしーね?仁ちゃん」
語尾にハートを付けながら勇人は楽しそうに笑った。
なんとかもぐもぐと口を動かし始めると、勇人は口に手を持っていき、仁人うさぎさんじゃん!と叫んだ。
舜太がそれに乗っかって、仁ちゃん可愛い!と同じような仕草で言葉を放った。
それに、俺は顔を項垂れて見せる。
こう言う時に何をやっても無駄なのは分かってるが、カメラに自分の表情を映されたくなくて本能的に顔を背けた。
楽しかった撮影のはずなのに、もう早く終わってくれとすら思い始めていることや、昔の自分が遠くにいってしまったように感じられることに、俺は気分が落ち込んでいくのを感じていた。
ようやく撮影が終わった楽屋。
残ったケーキをスタッフさん達みんなで囲んでいる様子を、離れたソファに座ってぼーっと眺めていた。
いや、正確には今日の撮影を思い出して、またあの過激なコメントが来るだろうことを想像して、落ち込みながら見ていた。
ギシっと。
隣に勇人が座った。片腕を俺の後ろのソファに回される。
今の思考の俺にとっては1番避けたい相手で、思わず少しだけ顔を逸らしてしまう。
「…お前さぁ」
勇人から出た声は、どこか苛立ちを含んでいるように感じられた。
普段とは違う声色に、思わず俺はさっきまでの気まずさを忘れて彼を見返す。
「なんか変じゃない?最近」
探るように見つめられる。
俺はその質問に居心地の悪さを感じた。
「俺、何かした?」
本当に心配するように、そして少しの怒気を潜ませて聞いてくる。
カメラが回っていない、完全に素の勇人だ。ミルクの活動を誰よりも大切に思っている彼を心配させてしまっていることに、申し訳なさが募っていく。
俺は話すべきかどうか悩んでしまって、結果俯くことしかできなかった。
はぁ、と怖いくらい冷たいため息が聞こえてくる。
ごめん勇人、ごめん
心ではこんなに簡単に話せるのに、なんで自分の唇はこんなにも重いのだろう。
そんな自分が情けなくて申し訳なくて、じんわりと目頭が熱くなっていく。
ぱたっと一粒、涙が落ちてズボンの色を濃くした。
「え、泣いてるの?」
ふるふると頭を横に振っても、意味はなくて。勇人には俺が泣き出したことはバレバレで。
その時、スタッフの一人が勇人を呼んだ。
「あ、はーい!今行きます!……仁人、今日この後俺ん家きて」
そうとだけ言い残して、勇人は走っていった。隣の重みがなくなった反動で、体が後ろに傾く。俺はうんとも嫌だとも言えず、俯いたままソファに取り残された。
勇人の家に向かう道中は、気まずいなんてもんじゃなかった。
撮影後の片付けをしているところを、勇人にほぼ無理やり連れ出され、乗り込んだ車の後部座先。隣同士で座るも、お互いに会話は一切なし。
「入って」
永遠に感じられた移動時間が終わり、馴染みのエントランスを通り、勇人の部屋の前。
やっぱり怒っているような声色に、俺は申し訳なさと純粋に怖さを感じて大人しく従った。
「ここ、座って」
言葉に操られるように、指定された茶色のソファに座る。
隣に座ってくる勇人に既視感を覚える。
なるべく誠意を見せようと勇人のほうに体を向けると、勇人も応えるように俺の方を向いた。
「なんかさ、最近俺のこと避けてない?」
「…ぅ、うん…」
「やっぱり!え、なんで?」
そうなるよな。やっぱり。
ここまでは車の中でも考えていた流れだ。俺の異変に気づかないはずがないんだ、勇人が。何年一緒にいると思ってんだよなぁ。一瞬でもやり過ごそうとした自分を責めたい。
そこまで一気に頭の中にナレーションが流れた後、俺は息を少し吸った。
「俺、最近SNSのコメントとか見ちゃうんだけどさ…」
俺の言葉に勇人が怪訝な顔になる。一体何の話だ、と言わんばかりに。
痛いほどの視線を受けながらも、俺は続けた。
「さ、さのじんって騒がれる度に、なんか…居た堪れなくて…最近撮影する時に、勇人と絡もうと思っても、また変なコメント来るんだろうなとか、勇人のファンを嫌な気持ちにさせるんじゃないかとかいろいろ考えちゃって…」
話しながら、そんな事を気にしている 自分が恥ずかしくてまたじんわりと目元が熱くなってくる。水分で潤んでいく視界の中で、勇人の姿が歪み始める。
「ま、前みたいに、自然に勇人と話せなくなっちゃって…っ、そんな自分も嫌になってて…俺、どうしたらいいかわかんなくなっちゃって…」
そこまで話したところで、キャパオーバーになった涙が瞳から溢れ出していく。
俺はもう気持ちを堰き止められずに、弱っている日々のことを赤裸々に打ち明けていた。
「そう…だったんだ…」
呆れられたよな、と思いながら見た勇人の顔は、しかし予想外に、手で口を押さえて頬を赤くさせて何かを堪えている様子だった。
「勇人、怒ってる…?」
ついに彼を怒らせてしまったのかと、俺はますます萎縮してしまった。
「えっ、あ、違う違う!怒ってない!今はまじで怒ってない!ってか」
「理由がわかって安心したっつーか…」
そう言いながら、勇人は俺の首に頭を預けてきた。ちくちくと髪が頬に当たってむず痒さを感じる。
「…っ!」
「逃げないで」
反射的に体を離そうとした俺の両腕をがっちりと抑えられる。
「は、やと…」
「はぁ…ほんと良かった、俺のこと嫌いになったんじゃなくて」
心から漏れた言葉。
それが本心だと分かって、俺も勇人を安心させられたんだということに、安堵した。
「俺、ここ最近仁人から避けられててまじで落ち込んでてさ…今日も柔とは仲良いのに俺には冷たかったしさ…辛かった」
「え…、あ、ご、ごめん」
勇人がそんなことを思っていたとは全く気づかなかった。またもや謝罪の念に押しつぶされそうになる。
勇人はすごいな、そんな素振りちっとも見せなくて。
そんなことを思っていると、もぞっと頭を動かされて、耳元で囁かれた。
「俺も見てるよ、さのじんコメント」
突然の低い囁き声に、ぞくりと、背中に電流が流れた。
「DMでもっとすごい内容も送られてくるし。さのじん厨の間じゃ仁人、俺にすごいことされてるよ」
すごいこと…?
意味は理解できずとも、勇人のいつもと違う雰囲気に俺は体がぞわぞわと波立つのを止められないでいた。
気づけば、勇人に腕を回されて抱きしめられている。
「はや…」
「ねぇ仁人、俺はね、お前と逆で。そういうコメント見てから、ますますお前のことが可愛く見えてしょうがないのよ、この際だから言うけどさ」
何?何だって?今なんて?
可愛い?俺のことが?なんで?
勇人は俺から顔を離して、真正面から覗き込んでくる。その顔は先ほどまでと違って、ものすごく…甘ったるいものだった。
「俺にこうやって触られるの嫌?」
聞かれて、少し考えて、頭を横に振って見せる。
「嫌、じゃない」
「コメントだと、さのじんだけじゃなくて、そのじんとか塩レモンとかも騒がれてるじゃん?なんで俺だけ避けてたの?」
言われてみれば確かにそうだ。
目に入ってきたコメントはさのじんだけではなかったはずだ。
それをなんで俺は勇人だけ意識してしまったんだろう。
考え込んだ俺を見て、勇人は少し泣きそうな表情で微笑んだ。
「仁人って鈍いよねぇ…、そんなところも可愛いいけどさ」
「えっ、鈍いってなんだよ?ってか、可愛いってさっきから何!」
もう一度勇人に抱きしめられた。
ぎゅっと力を込められる。
「仁人が、好きってこと」
しっかりと耳に囁かれた言葉。
俺は届いた言葉と、先ほどからの勇人の言動をやっと繋ぎ合わせることが出来て、頭から足の先まで急速に血が巡っていく感覚に襲われた。
「リアルさのじん、俺はなりたい」
続けて伝えられた想い。勇人の顔は見えないけど、密着している服越しからでも分かるくらい体温が熱く、早く鳴る心臓の鼓動が俺の体をも震わせている。
勇人の緊張も一緒に伝わってくる。
「仁人も俺のことが好きだよ、恋愛的な意味で」
勝手に俺の心を代弁される。
「ま、待って待って待って待って!」
「なんだよ」
「そんないきなり、言われても…えぇ、何…」
「仁ちゃん、あなた恋愛経験があんまりないだろうから、はっきり言います。あなたは俺のことが好きで気になってて、コメントで言い当てられて気まずい気持ちになってたんです!」
「……えっ、そういうこと…?」
このところずっと頭を悩ませていた事象を言葉で表現されて、ようやくストンと自分の中で腹落ちした音がした。
「俺が、勇人のことを、好き…?」
つぶやいた言葉に、自分の耳が熱くなるのを感じる。
自分でも気づいてなかった感情が、ファンには丸見えだったということか。
めちゃくちゃに恥ずかしい。
両手で顔を隠したいところだが、勇人にがっちりとホールドされて、それは叶わなかった。
ふと見上げたら、同じように顔を赤くさせて、でも俺とは違って嬉しそうな顔の勇人と目があった。
「うん、そうだよ」
仁人。
優しく名前を呼ばれて。
久しぶりに勇人に触れられて。
頭がふわふわとした心地よさに包まれていく。
髪を掻き上げられて耳にかけられる。
その手はそのまま頬に添えられて。
近づいてくる勇人の顔に、あ、キスされる、と思った。
ちゅっと
音をたてて、勇人は俺の額に口付けた。
予想してたのとは違う動きに目を見開くと、勇人はくすりと笑った。
「口にキスされると思った?」
かぁぁっと顔が熱を持つ。
「くっそ恥ずかしすぎんだけど…」
「可愛いね、仁人」
そんな可愛い可愛い連呼されて、調子が狂う。
「キスとか、その先は、追々ね」
楽しみにしてる。
耳元で再び囁かれて、俺はこの先何が待ち構えているのか、足りない想像力で妄想してしまって。
ぶわりと汗が吹き出すのを感じていた。
「あの〜…、まずは、俺たちの仲が、友達として戻ったってことで。そこから、ゆっくり進めていくって感じでどうですか?」
「なんで敬語なんだよ」
「い、いや、それこそ距離感わかんねぇんだもん!」
「距離感とか難しい事考えんなって!感情のまま動いたらいいの!」
「えぇ…」
「あと、あなたはデジタルデトックスしなさい!余計なもん目に入れない!」
「ま、まぁ、、それは確かに」
ということで。
俺はこれからデジタルデトックスすることに決めた。
今度、勇人の言ってたDMの内容教えてもらおう。
コメント
1件
あんこさん、読んだよ…! 仁人のSNSコメントに振り回されて勇人との距離迷子になるところ、めっちゃわかるし胸がぎゅってなった…「俺が勇人のこと好き?」って自覚する瞬間の流れ、すごく丁寧でじんときたよ。勇人が「リアルさのじん、俺はなりたい」って言うシーン、反則級にズルい(笑) 孤独感とかSNSに振り回される気持ち、現代っぽくてリアルだった。続きはどうなるんだろう…楽しみにしてます🌙